「…消えてしまいたかった」15歳でレイプされた少女はAV女優になった―元AV女優・大塚咲が初めて語った壮絶な過去

社会

公開日:2017/9/10

『よわむし』(双葉社)

 大塚咲さんは画家や写真家として活躍しているアーティストであり、2017年3月には初となる絵画の個展も開催している。現在は精力的に作品制作へと励んでいる大塚さんだが、彼女の過去には壮絶な体験が繰り返されていた。

『よわむし』(双葉社)は大塚さんの自伝であり、初の著作となる。男性社会の中で傷つけられ、自分を見失いながらも生にしがみついた大塚さんの姿は、女性読者に強い印象を残すだろう。そして、男性読者には知らず知らずのうちに抱きがちな「男尊女卑」の価値観を反省するきっかけになるのではないか。

 中学校時代は生徒会役員を務めるほど真面目な少女だった大塚さんは、女子高の特別進学科に進学する。学級委員長に任命されるなど、教師からも同級生からも信頼を置かれ、学校生活は楽しいスタートを切ったはずだった。

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 しかし、15歳の大塚さんを悲劇が襲った。英語検定の試験を受けるために、一緒に行く友達を迎えに行く途中、大塚さんは見知らぬ男にレイプされてしまう。現場は高校の隣の家だったため、その日から大塚さんが愛していた学校は恐怖と屈辱を思い出す対象に変わった。

…消えてしまいたかった。“私の現実”ごと消えてしまいたかった。自分が女である事も、自分の無力さも全て、消えてなくなって欲しかった。

 在学中、大塚さんはレイプされたことを誰にも話せなかった。しかし、被害の記憶は大塚さんの人生に大きな影を落とす。悪夢に苦しめられ、犯人へ復讐したい思いから自傷行為を繰り返す。交友関係も変わり、素行の悪い同世代とつるむ時間を居心地良く感じるようになる。性的にも奔放になり、17歳で中絶も経験した。そして、高校2年生のときに自主退学し、フリーター生活を始める。

 高校を辞めても大塚さんの苦しみは消えなかった。街中で幻覚を見るほどに、心の傷は広がっていく。自己破壊衝動にかられ、当時の恋人に暴力を振るってくれるよう頼んだこともあった。大塚さんは自分の体が男たちから性の対象にされ続ける現実に悩み続ける。性欲を恐れる大塚さんは、いっそ、自分を性の世界に投げつけてしまおうと決意する。大塚さんは18歳で自らスカウトマンに声をかけ、AV女優となった。

 しかし、デビューした大塚さんを待っていたのは残酷なAV業界の裏側だった。詐欺に近い契約内容への不信感から大塚さんは最初の専属契約を破棄するが、一度「飛んだ」女優は業界内での扱いが変わる。以後、企画女優となった大塚さんを大人たちは守ってくれなくなった。撮影では打ち合わせにないレイプ紛いの演出が行われて、かつての傷口を抉られる。スタッフによるレイプが横行し、事務所に訴えても泣き寝入りするしかない。大塚さんの所属していた弱小事務所は業界内で完全になめられていたのだ。やがて、当時の恋人だったマネージャーとの交際がばれて、周囲の圧力から結婚させられる羽目になる。マネージャーが女優と「火遊び」するのはご法度だが、本気なら許されるという考え方がまかり通っていたからだ。当然、大塚さんは怒りを覚えるが、その直後に妊娠が発覚したこともあり、結局は周囲の要求を飲むしかなくなった。

 男性たちの一方的な欲望に翻弄される大塚さんの姿は、特殊な業界の特殊な事例と言い切れない。無意識に社会全体が内包している女性への差別意識や偏見が地続きになって起こった問題と見るべきだろう。大塚さんの告白を機会に、我々は自らの心に潜む闇と向き合ってみる必要がある。

 出産を経て現場復帰した大塚さんはヒット作に恵まれ、遅咲きのブレイクを果たす。2012年に引退し、以後、アーティスト活動を本格化させた。ちなみに、結婚した男性とはすでに離婚している。

 大塚さんを苦しめたのはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれる症状だ。今も完全に心が回復したわけではないが、大塚さんは人間の「欲」を受け入れながら前向きに生を謳歌している。辛い経験の先に見出した彼女の表現は、これからも説得力を持って人々の胸に届くだろう。

文=石塚就一