遺伝子検査で「ステージ-1」のがんを発見――最先端医療で見えた日本の医療鎖国
公開日:2017/9/12
スティーブ・ジョブズを死に至らしめた病、「膵臓がん」。発病後の生存率が低く、再発リスクが高い、極めて困難なこの病気を克服した人物がいる。それは、ハイパーメディアプロデューサーこと、高城剛氏である。
なぜ高城氏は、がんで命を落とすことがなかったのか。その秘密は、いい意味でのミーハー心にあった。今、医療の現場は、ゲノム解析やAIの普及により、根本的に変わりつつある。そんな変化に興味を持ち、一冊の本にまとめると決めた矢先のことだった。自らが検体となり様々な検査を受けていたところ、超初期のがんが見つかったのだ。
リサーチを重ねる過程で、高城氏は偶然にも膵臓がんを発見し、発病リスクを極めて低く抑えることができた。その顛末を詳しく記したのが『不老超寿』(高城剛/講談社)である。不老“超”寿との表記は、「ハイパーエイジング」と高城氏が名付けたところからきている。ITを駆使した先端技術の医療のことを指す。今、医療の現場は「ハイパー」な進化を遂げているのだ。
■遺伝子検査でステージ-1のがんを発見
高城氏が診断された膵臓がんのステージは「-1」。普通、がんの進行具合はステージ1~4で表す。それがマイナスとはどういうことか? 高城氏が受けたがん検査は「ミアテスト」というものである。この検査は今までにない遺伝子の状態を調べるものだ。
カギとなるのは、血液中や唾液などに含まれる遺伝子の塩基情報である「マイクロRNA」(mi-RNA)である。このマイクロRNAは、「他の遺伝子の発現を調整するという役割」がある。つまり、がんなどの病気が発症すると、血液中のマイクロRNAの種類が変化する。この検査では、今まで見つけられなかった、ごく微少ながん細胞や転移の芽を発見することが可能だという。
このミアテストの結果は、高城氏が数ヶ月以内に膵臓がんを発症する可能性を示唆していた。膵臓がんといえば、進行速度が極めて速く、見つかった時点では手遅れになることが多い。幸いにも「マイナス」が付くほどステージは低くごく微少ながんであった。
■安価なビタミンCでも治療ができる
ではこの微少ながんをどう治療したのか。医療行為という意味ではほぼ、ひとつだけ、「高濃度ビタミンC点滴」である。これは今や世界のがん治療では定着しつつある、治療法。抗酸化物質であるビタミンCを大量に静脈に投与すると、強い抗酸化作用を誘発し、がん細胞のみを死滅させることができるのだ。しかも正常な細胞は傷つけず、副作用などはほぼない。
その他にも、放射線曝露を抑えるため、飛行機での移動をなくす。仕事を減らすなど、体内外のストレスを減らす努力。そして健康的な食事。治療と同時にこれらを心がけた。
そして3ヶ月後…。再び、ミアテストでマイクロRNAの値を調べると、高城氏の膵臓がんの発症リスクは大きくレベルが下がっていたのだという。
一般的にがん治療といえば「抗がん剤」で、毛髪が抜けるなど副作用のリスクもある。しかし高濃度ビタミンC点滴なら、このような副作用に苦しむことはない。ではなぜ一般に普及していないのか。高城氏は次のように推測する。
L-アスコルビン酸(ビタミンC)は、製造のパテント(特許権)がすでに切れている古い薬で、単価も非常に安い。それゆえいくら研究を重ねて治験データを集めたところで、それが利益に結び付くとは考えにくく、また本当に効果的であっても、あまり儲からないのであれば、ビジネスとして力を入れる理由がない。(中略)
いまや製薬会社が儲からないからと放っておいているものの中になにか光があるのではないか
抗がん剤は世界中で年間数兆円も売り上げる。製薬会社にとってはいわば「金のなる木」である。安価なビタミンCががんに効くとなれば一大事である。そのため研究には熱心ではない。むしろネガティブキャンペーンを繰り広げているのではないかと、医療関係者は勘ぐっているという。
■自分に最適な手段をさがそう
高齢化の一途をたどる日本では、医療費は拡大し続け国家の財政を圧迫している。高城氏が受けたミアテストなどのように、「未病」段階で病気を防げれば医療費は大幅に削減できる。また治療法も、「日本の常識」ではなく「世界の常識」を取り入れれば、もっと費用を抑えることもできる。けれどもそれは、製薬会社の売り上げを減らすことも、また医療従事者の数を減らすことにもなりかねない。日本の医療業界の体質を変えなければ、数年ののちに社会保険は破綻する可能性があるにもかかわらず。
本書ではITの力を医療に用いた最先端の医療を紹介している。けれども結果として目に付くのは、日本の医療業界が既得権益をかたくなに守ろうとする姿だ。その結果として国民の負担が増えるのが目に見えている。こんな時代に医療とどう向き合えばいいのか。高城氏は次のようにも語っている。
「国際的な見地」と「個別化」
厚生労働省に製薬業界や医療業界との癒着が絶対にないとは言い切れない。それなら他国へ目を向けるべきだ。海外の論文や治療法に目を広げてみること。そして「遺伝子検査」など最新のテクノロジーが導き出す、「体質」に合った治療を行うこと。この2点に注目すべきだと。
本書では、国内外で受けられる「最新三つ星検査」を網羅している。また細胞レベルで若返りに成功した人物を紹介することや、未来の医療の予測も記されている。これらは今、病に悩んでいる人には一縷の望みとなり、いずれ病に罹る人も知って損はない情報だ。テクノロジーと同時に進化した医療を本書から学ぶことは、転ばぬ先の杖となることであろう。
文=武藤徉子