40歳で不妊治療をやめた。「産まない」選択を一緒に考える
更新日:2017/10/10
結婚したら子供を産んで当たり前。女性が男性と肩を並べて働くようになった現代の日本でも、まだそんな固定観念が存在する。既婚子無しである私自身、2人の子持ちの友人に「おめでたのニュース、待ってるね」と言われてモヤっとした経験がある。人によって価値観が異なるのは仕方がないが、「産む」と「産まない」の狭間でもがいている女性がいることはわかってほしい。
そんな女性たちのために書き下ろされたのが、『産まないことは「逃げ」ですか?』(吉田潮/ベストセラーズ)。著者の吉田潮氏は、40代で不妊治療をやめ、「産まない」人生を選択した。今は子供のいない人生に満足しているというが、子供が欲しいと思ってからその境地に至るまでの葛藤が、本書には赤裸々に描かれている。
妊活中は「性行為後は逆立ちになる」を実践したり、排卵日前にパートナーの意志を無視して性交+中出しを要求したり(著者はこれを「射精ハラスメント」と呼んでいる)。コミカルな文体なので思わず笑ってしまうが、妊活中の女性はどのエピソードもかなり共感できるのではないだろうか。一度は子供を切望していた著者だからこそ書ける、説得力がある内容になっている。
本書の核となっているのが、「自分が主語」であることの大切さだ。子供がいない夫婦に「子供がいないと寂しいでしょう」という人が時々いるが、当人からしてみれば、そもそも最初からいないのだから寂しさなど感じるはずがない。「寂しい」は世間が主語で、世間体に縛られているから生まれる感覚だという。著者は本書の中で、「子供が欲しい病」にかかってしまったことも世間体に縛られていた部分があったのかもしれない、と語る。
本当に子供が欲しくて不妊治療をやったのか。……結婚していても子供がいないのは、産まなかったのではなくて産めなかった、と言いたいだけなのではないか
子供を「産まない」と宣言するのは勇気がいる。でもだからといって、自分の本当の気持ちと向き合わないままに子供を持とうとする人生は、「世間が主語」になってはいないだろうか。
本書で紹介されている、子供がいない人生を選んだ人のエピソードも興味深い。著者の姉であるイラストレーターの地獄カレーは、しつけをしない親、子供オンリーになる母親を見て「あっち側にはなりたくない」と思ったという。著者の友人であるコラムニストのサンドラ・ヘフェリンは、今の世界には問題が多く、次世代に見せてあげたいと思えないこと、日独ハーフである自分自身がアイデンティティを確立するのに苦労した経験から、同じ思いを子供にさせたくないと考えて、夫と2人で子供を作らないと決めたそうだ。“産まない人生を選んだ”といってもその理由は人によってさまざま。誰かのルールに縛られる必要はないのだ。
治療を続けていてもなかなか子供を授からない人。子供をつくるかどうか迷っている人。色々な立場の人がいるだろうが、「産まないことは逃げですか?」という問いかけに少しでも感じるものがあれば、本書を手に取ってほしい。自分は本当に子供が欲しいと思っているのか、考えるきっかけになるはずだ。最後に、本書から一部分を抜粋しよう。
産まないと決めた人は、少なくとも自分自身とイヤというほど向き合っていて、自分からは逃げていない。欲しくないという意志を貫き、パートナーがいる人はお互いひざを突き合わせて、意思の疎通を図った結果でもある。逃げているどころか、逃げずに立ち止まって向き合った結果、産まないと決めたのだ
産まないことは、けして逃げではない。子供を産んでも産まなくても、人生の主語が「自分」であることに変わりはないのだから。
文=佐藤結衣