60職種70人が答えた、クリエイターの「ハローワーク」

ビジネス

公開日:2017/9/20

『クリエイターのハローワーク ものづくり業界と職種がわかる本』(ビーコムプラス/マール社)

 日一日と秋が深まっている昨今。読書の秋、食欲の秋……なぜ、この季節は“~の秋”でたとえる楽しみが多いのだろう。夏の華やいだ、どこか浮き足立っていた街の喧騒もようやく静まり、秋は、気候も人も落ち着いて、思索できるようになってくるからだろうか

 もうひとつ、メジャーな秋といえば“芸術の秋”。それに関連して「クリエイター」あるいは「ものづくりの作り手」として、進路を考えられる一冊がある。

 『クリエイターのハローワーク ものづくり業界と職種がわかる本』(ビーコムプラス/マール社)は、ものづくりを生業とするデザイナーから職人まで、ものづくりの60職種の、70人ものクリエイターに取材を敢行。ものづくりの職種を「マスコミ系クリエイター」「エンターテインメント系クリエイター」「建築・工業系デザイナー」「服飾・インテリア系クリエイター」「美術・芸術家」「美術の教育や普及、芸術家支援」「伝統工芸の仕事」「その他のクリエイター」と、全部で8系統に分け、CMディレクター、ランドスケープデザイナー、装丁家、絵画修復士、能面師、染色家、浮世絵彫師、ギター制作職人等々、多岐にわたるクリエイターの仕事の内容を、1職種につき、見開きオールカラーの2ページで紹介している。

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 職種の概要に始まり、一般的な例としてのその仕事に就くまでの進路チャート、具体的な業務、どんな技術が求められるのか、時には最新の業界情勢も織り込みながら、丁寧な解説がされている。また、全員、現役のクリエイター、もしくは、既に教鞭をとる立場で活躍する人々へのインタビューを行なっており、職業プロフィールと、現在の仕事に就くきっかけが記され、まっすぐその道を進んできた人、紆余曲折があって辿りつく人と様々で、先達の生き方としても興味深いものとなっている。また、簡易ではあるが年収の目安や、「自由度」「安定度」がわかる「生活バランス」表、職種の適性の目安として、デザインセンスや色彩、空間認識、文章力などの“必要なスキル”が5つ星で評価されているので、自分の適性を考える際に参考となるだろう。

 ちなみに“必要なスキル”には、「コミュニケーション力」という項目があり、それは、どの職種でも3つ星以上がついていた。クリエイターや職人の世界は、作業自体は一人で行なうことが多いかもしれないが、モノが完成するまでの工程(行程)には、交渉事が必ずあるだろうし、ディレクター職のようなクリエイターなら、チームワークは必須で、高いコミュニケーション能力が要求される。やはり、どんな世界でもこの力は共通だ。

 さらに、職種案内の合間には「プロか趣味かのマンガ道 同人作家と商業作家の違いは?」「伝統木版画の灯を絶やさず浮世絵と職人さんの価値を高めたい」「アートを考えるきっかけができれば、生活や人生が変わる」などのコラムがあり、クリエイター志望者やアートに関心がある人の知見を広げてくれる。なお、本編に続き、付録として適職診断とクリエイターの基礎用語集もついている。

 特に、クリエイターを志す若い人には、ぜひ、本書の「あとがき」まで目を通してほしい。そこには「ものづくりでメシを食う」心得ともいえる、ヒントになる言葉が書かれている。適職診断とあわせて活用できるはずだ。

 クリエイターと表現は統一されているが、伝統的な職人についても、きちんと取り上げている。学生の進路にはもちろん、“手に職を”求める大人、シニアが読んでも役立つ一冊となっている。

文=小林みさえ