読書にも“コツ”がある? 橋爪大三郎氏から学ぶ、本の読み方
公開日:2017/9/22
『正しい本の読み方(講談社現代新書)』(橋爪大三郎/講談社)は「本の読み方の本」である。なぜこのような本が必要なのか? 著者である東京工業大学名誉教授の橋爪大三郎氏は「本が多すぎるから」と「はじめに」で説明している。
では実際問題、本はどのくらいあるのか?
日本国内の出版物が納本されている国立国会図書館の蔵書を調べてみたところ、図書だけで1075万1931点(平成27年度の統計。新聞や雑誌、マイクロ資料、地図などは除く)あるそうだ。膨大である。これを一切寝ずに1冊を1時間のペース(もちろん1時間で読み切れない本なんて山ほどあるし、寝ないなんてもっと無理だ)で読んだとしても、なんと1200年以上(読み終わったら33世紀だ!)かかってしまう。しかも読んでいる間も本の刊行は続いて数が増えていくし、海外で出版される本もある。もしかすると33世紀には地球外からやってくる本もあるかもしれない。なので全部を読むのは到底無理なのである(当たり前な話だが)。
そこで必要なのが「どんな本を読んでおくべきか?」だ。『正しい本の読み方』は「正しい」と銘打っている通り、クラシカルでオーセンティックな本の選び方と、読み方の基本と応用を伝授してくれる。さらにはマルクスやヘーゲルなど、いわゆる「名著」と呼ばれる本の内容や構造、意図、背景を理解するにはどのように読めばいいのかという手引書でもあり、本を読む行為についての哲学的考察もある。
「なんで読書しないといけないの?」「なんで勉強しないといけないの?」「なんでテストは暗記しないといけないの?」といったことを一度でも思ったことがある人――本書を読解できるならば、学生だろうと高齢者であろうと年齢は問わない――は、これらの疑問に対する一定の答えを受け取ることができるだろう。
なので、まずは第三章「どのように本を読めばよいのか」にあるように本書を「素直」に読み進め、橋爪氏が指南しているマーキングを適宜行って自分の意見を書き込み、言及されていることについて自分なりに考えながら、最後まで読み切ってほしい。そして読後、本書で指摘されている「すべての本は、間違っている可能性がある」という批判的な見地から、改めて内容を捉え直してもらいたい。
本書にはまさに、わき道に逸れない正統な読書法が書かれている。しかしそれは万人にとって「正しい」わけではない。その真意は「守破離」という言葉にある。
デジタル大辞泉によると「守破離」の意味は「剣道や茶道などで、修行における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」とある。「どう本を選び、どう読んでいいかわからない」「読んだけど頭に入らない」という人は、まずは「守」となる『正しい本の読み方』のメソッドを習得した上で、自分なりに「破」→「離」と進んでいってもらいたい。その自由さこそ、読書の醍醐味だ。
あまりに難しく1日1ページしか読み進められなかったと本書で橋爪氏が述懐している哲学者ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン:著、野矢茂樹:訳/岩波書店)には、こんな言葉がある。
太陽は明日も昇るだろうというのは一つの仮説である。すなわち、われわれは太陽が昇るかどうか、知っているわけではない。
これだけ読むとなんだかカッコいい箴言だが、この文章の前後、そして本全体、さらには関係する書籍を体系的に読んでこそ、この一文がいきいきと輝く……そんな正統派な知識の構築方法を教えてくれるのが『正しい本の読み方』なのだ。豊富な読書体験は、必ずやあなたの人生を豊かなものにしてくれる。まずはその一歩を、本書で体得してもらいたい。
文=成田全(ナリタタモツ)