「2030年までに人類は破局に至る」“欧州を代表する知性”が「最悪の未来」と回避法を語る!

社会

公開日:2017/9/27

『2030年 ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(ジャック・アタリ:著、林 昌宏:訳/プレジデント社)

 サブプライムローンによる金融危機。新たなテロの脅威。トランプ米大統領の誕生……。

 これらの出来事を予測し、見事に的中させた人物がいる。それが、“欧州を代表する知性”と言われる経済学者・思想家で、フランス大統領補佐官などを務めてきたジャック・アタリだ。

 その彼の新著が『2030年 ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!』(ジャック・アタリ:著、林 昌宏:訳/プレジデント社)。その未来予測は、「このまま行けば、2030年までに人類は破局に至る」というショッキングなものだ。

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 アタリが本書で最初に行うのは、世界情勢の現状把握。彼は、今の世界の「光と影」「善と悪」の両面を丁寧に描写していく。

 なお「光」や「善」の例は、「向上し続ける生活水準」「続伸する平均寿命」「農業、教育、医療の分野におけるイノベーション」「新たなコミュニケーション手段の普及」といったもの。

「影」や「悪」の例は「加速する富の偏在」「破綻寸前の医療システム」「失われる報道の自由」「民主主義の後退」「カルト原理主義者の台頭」などだ。

 そしてアタリは、「いつの時代も世界は善悪の両面に満ちあふれていた」「善をなす活動家は増え続けているが、世界は悪の勢力によって支配されている」と警鐘を鳴らす。本書は日本向けに書かれたものではないが、「富の偏在」「失われる報道の自由」など、日本人としても「確かにそんな流れを感じる」と思う部分が多々ある。

 さらに、現在の世界のポジティブな部分、ネガティブな部分の両方を解説してくれるので、読者は本書を読むことで、“世界を冷静かつ客観的に眺める視点”を手に入れることができるのだ。

 そして現状把握を行った上で、アタリが行う世界の現状分析も、冷静で的確なものだ。

 彼はまず、「現在までのところ、政治と経済の自由にもとづく社会組織は、世界で最も優れた制度である」として、これまで人類が発展させてきた社会を肯定する。一方で、現在そのシステムは機能不全に陥っていて、「世界は奈落の底に突き落とされる寸前である」とする。その背景には、「グローバル化する市場が法のない状態にあること」「国内に閉じこもる民主主義がますます空虚になっていること」などの変化があることを挙げる……。

「世界有数の頭脳の持ち主には、今 の世界がこんなふうに見えているのか」と、その理路整然とした分析には感心してしまう 。

 だが、本書は現状把握と分析だけでは終わらない。アタリは世界を代表する学者、思想家であるだけではなく、自己啓発書さながらのアジテーションで、その先の「行動」にまで読者を駆り立ててくれるのだ。

 本書の最終章「明るい未来」の一部を引用で紹介しよう。

 われわれは最悪の事態を避けるためにするべきことを模索しなければならないのである。
 そのためには、楽観的であっても、悲観的であっても、あきらめても、ナイーブであってもいけない。熱意を持って取り組むのだ。それも大いなる熱意だ。それは武器を手にして破壊するためではなく、今の世界を拒絶するためだ。そしてこの世界が予測通りに推移するのなら、そのような未来を拒絶するためだ。次に、冷静になり、歴史の流れを変えるテコになる活動を突き止め、誰もが自由で情熱をもって過ごせる世の中に変革するのだ。

 続けてアタリは「集団の活動に大きな変化が必要な際には、すべては必ず個人が変わることから始まる」と書いている。

 まずは一人ひとりの人間が、自分の思考と行動を変えていくこと。それがアタリの考える、世界をよりよい方向に変えていくための第一歩なのだ。

文=古澤誠一郎