日本列島が誕生した奇跡の軌跡をたどる、知られざる大地の物語
公開日:2017/9/28
数年前、友人に誘われて横浜に遊びに行ったさいに、待ち合わせ時間までの雨宿りがてら横浜市歴史博物館に立ち寄ったことがある。先土器時代(約1万年前~約1万5000年前)からの横浜の歴史を模型やパネルで解説してあるコーナーを見学し、15分間ほどの映像が見られる歴史劇場を行政の用意した子供向けのモノだろうと軽い気持ちで観てみたら、始まって早々にのけぞってしまった。公式サイトでは「横浜がたどってきた2万年の歴史」と紹介されているが、なんと横浜の歴史が地球誕生から語られるんである。迫力に圧倒され、待ち合わせた横浜在住の友人にその素晴らしさを滔々と語って困惑させてしまった。
この『NHKスペシャル 列島誕生 ジオ・ジャパン 激動の日本列島 誕生の物語』(NHKスペシャル「列島誕生 ジオ・ジャパン」制作班/宝島社)もまた、目次の序章に「地球の誕生」というタイトルを付けておきながら、銀河系の片隅で太陽系が誕生したところから物語が始まる。
本書によれば現在の日本列島は、「大陸からの分離」「火山島の衝突」「世界最大規模のカルデラ噴火」「山国をつくりあげた『東西圧縮』」の4つの大事件から成るそうだ。今や大陸が移動しているというのは常識であるものの、大陸から日本列島が揃って分離した訳ではない。よく知られているように、日本列島には東西を分けるフォッサマグナ(中央地溝帯)が存在している。これは東西が分かれていたことを示している訳だが、なんと約3000万年前に北海道を含む東側は反時計回りに、九州を含む西側は時計回りに「回転しながら」ユーラシア大陸から引き剥がされたと考えられるという。
そして大陸から離れ、まだ日本列島が東西に分かれていた頃、現在の沖縄あたりにあった火山島が次々と西日本側に衝突していき伊豆半島を形成していった。まだ東西が一つに成るより先に、この衝突によって大量の土砂が海底に流れ込み関東平野のもとと成ったそうだ。そして約1400万年前に、紀伊半島において地球上における最大規模のカルデラ噴火が起こった。火山噴火というと山頂からマグマが噴き出すのをイメージしがちだが、カルデラ噴火は広範囲の大地が陥没してマグマが噴き出す。この大噴火のマグマが固まってできた花崗岩(かこうがん)は地球内部の地殻をつくる岩石より密度が低く軽いため、一千数百万年かけて西日本を浮上させ今日のような高い山々を作ったという。
西日本において超巨大噴火による大地の浮上で山々ができたとすれば、約500万年前にようやく1本につながった日本列島の東日本は、約300万年前になって突然隆起し始めたらしい。それが分かるのは房総半島の地質だそうで、300万年前の境界線を境に南側の地層が水平なのに対して北側は斜めになっており、日本列島が乗っている大陸プレートと、大陸にもぐり込んでいく太平洋プレートとフィリピン海プレートの動く方向が関係しているという。昔は北上していたフィリピン海プレートが西に移動している太平洋プレートに押される形で北西へと向きへと変え、その力が東日本にかかることで急速に隆起したと考えられるそうだ。こうしてできた山々が無く、もし日本列島が平野だったら降水量は現在の1/10と予想されるというから、本書にあるように「奇跡の大地」と呼んでも差し支えあるまい。
本書の巻末には、地域の地史や地質遺産といった地球科学的なことを体験し学べる全国43ヶ所のジオパークが紹介されている。いくつか旅行で行ったことのある地域を調べてみたら、どうやら気に留めずに観光地巡りをしてしまったようで、あまり記憶に残っていない。今度は、周辺にある資料館などの情報拠点施設も含めてじっくり観てみようと思う。
文=清水銀嶺