最低賃金が1500円に上がれば、生きづらい社会ではなくなりますか?【「エキタス」メンバー インタビュー】

社会

公開日:2017/9/28

『エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ』(エキタス、今野晴貴、雨宮処凛/かもがわ出版)

「貧困叩きは今すぐやめろ!」
「最低賃金1500円にあげろ!」

 札束を握った拳のアイコンを掲げ、リズミカルなコールで街を練り歩くデモに遭遇したことはないだろうか。主催しているのは最低賃金の引き上げや中小企業支援などを訴え続ける「エキタス」という団体で、ラテン語で「正義」や「公正」を意味している。

 彼ら彼女らが自分たちの活動についてまとめた、『エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ』(エキタス、今野晴貴、雨宮処凛/かもがわ出版)が出版された。若者の格差や労働問題に取り組むNPO法人・POSSE代表の今野晴貴さんと、貧困・格差について取材し続けてきた作家の雨宮処凛さんとともに、現代の労働者がおかれている問題や反貧困運動、エキタスのメンバーがどんな主張をしてきたかが三部構成で紹介されている。なぜ1500円なのか、何を伝えたいのか。執筆者の1人で大学4年生のエキタスメンバー、栗原耕平さんにインタビューした。

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■最低賃金1500円は甘えでなく、根拠がある

 エキタスは大学生など、おもに20代で構成されている。自由で民主的な日本を守るための学生による緊急アクション「SEALDs」が立ち上がったのは2015年5月、対してエキタスは2015年9月と時期が近い。両方に参加していたメンバーもいたが、エキタスはエキタスで独自に生まれたそうだ。

 「僕自身は労働運動の側面から3.11以降の日本の流れを見ていたのですが、ある時メンバーの1人で大学の後輩とアメリカで起きた『ファイト・フォー15』(2012年頃から始まった、ファストフード店従業員らによる「最低賃金を15ドルに」と訴えるストライキなどの運動のこと。シアトルなど一部の州では本当に実現した)を見て、これを日本でもやれないかなと盛り上がって。そこから広がっていったのがエキタスです」

 各地の労働組合の生計費調査によると、人間らしく生きるために必要な月収は全国平均でおよそ22万~23万円だった。それをフルタイム労働の時給で換算すると1300~1500円程度になる。しかし現在の最低賃金は全国平均で848円と、およそ半分程度にとどまっている。それゆえに「最低賃金を1500円にしたら中小企業がつぶれる」という批判もあるなか、この額を主張する理由はなんだろうか?

 「消費が冷え込んでいるなか、最低賃金が1500円になればより消費にお金が回せるので、結果として中小企業も潤うのではないか。また地方の中小企業のなかには働き手不足が深刻な会社もあるので、そういう問題も改善するのではないかと思っています。それでもダメなら何らかの社会的支援が必要なので、エキタスは『最低賃金を1500円に』と同時に、中小企業支援を訴えています。

 日本の最低賃金が低いのは、『女性は夫に養ってもらうのだから安い賃金でいい』という考え方が支配的で、男女の賃金格差があるのも理由の1つです。エキタスで『最低賃金1500円になったら?』というアンケートを取ったことがありますが『離婚できる』と答えた方がいて。お金があれば、抑圧から解放される人がいることを改めて知りました。生活できればいいではなく、人間らしく生きるための最低限の要求だと思っています」

■労働運動は、幸せに生きるための1つの方法

 ほかにも「甘えるな」「1500円を払う価値がある人間になれ」などの批判が寄せられたこともある。しかしそれはひとえに、正社員であったとしても労働環境が総じて厳しく、誰もが苦しい思いをしているからだと栗原さんは見ている。

 「ブラック企業については本の中で今野さんが触れていますが、正社員であっても低賃金かつ過酷な条件で働いている人たちが多いため、『俺たちはこんなに頑張ってても苦しいのに、お前らは楽しようとしているのだろう』というバッシングが起きたのではないかと思っています。また『奨学金の返済が苦しいなら、大学に行かず働けばいい』という意見もありますが、現在の高卒者の労働市場はさらに縮小して悪化している。そういう現実も理解していただけたらと思います」

 一方で非正規労働者だけではなく正社員の中にも、エキタスの運動に関心を持つ人も、確実に増えているという。今では政党や労働組合も「最低賃金1500円」を訴えるなど、結成2年の間に空気が変わってきているのを、栗原さんは実感しているそうだ。

「ブラック企業で苦しい思いをしている、生活も大変という状況があっても、どうしていいかわからない人が今までは多かった。でも『最低賃金が1500円になれば楽になる』と気づいたことで、希望が開けてきたのかもしれません。自分は当事者ではないけれど、エキタスを通じて当事者と気づき、デモに参加するようになった人もいます。またエキタス東海や京都が結成されたり、エキタスと称してなくとも最低賃金1500円を求める運動が各地で起きたりと、横の広がりが出てきていることがうれしくて」

 エキタスの活動を伝える名刺代わりの一冊でもあるが、とりわけ働くことに矛盾を感じている若い労働者や、学生に読んでほしいと栗原さんは語る。

「幸せに生きるために要求していい、そのために労働運動があるということを知らないと、我慢して働かなくてはいけないと思い込まされてしまう。しかし我慢しなくていいんだと伝えたいんです。

 僕自身、中高生の頃テスト勉強をするのがすごく嫌いでした。それは周りから『将来ワーキングプアにならないように、勉強していい企業に正社員で入らないと』と言われていたから。しかし敷かれたレール自体が今や、壊れているかもしれない時代です。やっと就職しても決して未来は安泰ではない。だから声をあげる労働運動が必要なのだということも、この本を通して伝えたいですね」

▲エキタスメンバー、栗原耕平さん

取材・文=今井 順梨