算数や数学をもとに考える―日常生活を豊かにする「例えば」の4つの用法
公開日:2017/10/3
文系出身の人間と理系出身の人間の違いが話題になるときがある。例えば、「文系出身者は情に訴えかけるように話すのに対し、理系出身者は客観的に話す」「文系出身者は変化を好み、理系出身者は普遍を好む」など。納得する人もいれば、眉唾ものだとそっぽを向く人もいるだろう。
文系出身者がそうではない、という話ではないが、理系出身者…特に数学を得意とする人たちが「普遍を好み客観的に話す傾向にある」というのは事実なのかもしれない。『かしこい人は算数で考える(日経プレミアシリーズ)』(芳沢 光雄/日本経済新聞出版社)は次のように述べている。
およそ数学を得意とする方々は、言葉の定義や意味を人一倍大切にします。一方で、数学を苦手とする方々の学びは、主に「やり方」を覚えて真似をする型です。こうした型では、言葉の定義や意味を深く理解する必要はありません。
上記の「『やり方』を覚えて真似をする型」の例として、本書は、次を挙げている。
たとえば、円周率πの定義を知らなくても、円の面積は「π×半径×半径」で求まります。2次方程式の解の公式の証明は学ばなくても、公式を覚えれば解は求まります。問題がマークシート形式ならば、正解の当て方を駆使して答えを当てられる場合が多々あります。
言葉の定義や意味を知らなくても、日常生活は乗り越えられる。しかしながら、複雑な問題が山積し、さまざまな意見が飛び交う昨今の社会では、誤解のない議論を積み重ねるうえで、言葉の定義や意味を正しく理解し、使うことが重要だとしている。
ところで、すでに記事の中で、いくつかの「例」を挙げてきた。本書によると、日常生活で誰もが使う「例えば」という言葉には、4つの用法がある。「例えば」の4つの用法の定義や意味を正しく知ることで、日常生活の質がより向上するかもしれない。
1つ目の用法は、存在や反例を挙げる「例」。
「『お酒が全く飲めません』と言っているある社員が駅前の立ち飲み屋でコップ酒をグイグイ飲んでいたところを同僚社員が目撃した」という例などを挙げて、次のように用法を解説している。
存在するか否かが分からないものの存在例や、ある主張に対する反例を挙げるときは、1つの例で構わないのです。もちろんその例は、なるべく説得力のあるものに越したことはありません。
2つ目の用法は、集合や要素を列挙する「例」。
ある寿司屋にどんなメニューがあるかを説明するときに、「鉄火巻き、かっぱ巻き、かんぴょう巻き、納豆巻きなどがあります」と答えて、説明を聞いた人が「そのお店は巻きものが中心なのか」と勘違いするという例を挙げて、次のように用法を解説している。
ある集合の要素をいくつか列挙する形でその集合の全体像を示すときは、偏りがなく全体をイメージしやすい要素を列挙することがよいのです。
3つ目の用法は、比喩のような「例」。
「釣り人の間では『釣りは鮒(ふな)に始まり、鮒に終わる』とよく言われる。これは、それくらい鮒釣りは釣りの基本であると同時に奥深いものだということを意味している。およそ数学の学習で、整数に関する学びは鮒釣りとよく似ている。……」という、本書著者の前著にある「読者から好評だった」という文を例に挙げて、次のように用法を解説している。
分かりにくい概念を説明するとき、訴えたい内容に関して同じ構造をもつ分かりやすい例を比喩として用いることは効果的だということです。
数学の世界では「同じ構造の例」を「同型対応の例」と呼び、ハッとした後にピーンとくる例を示すとよい、という。
4つ目の用法は、主題を取り替えるときの「例」。
「健康状態ばかりでなく、何事も安定した状態が続くとは限らない」という話のすぐ後に「例えば、急激な円高・ドル安が起これば、株式市場が大混乱して暴落し、日本の景気が一気に悪化すると同時に、大学生の就職状況は一変して厳しくなるため、適性検査に出題される程度の算数の問題は、日頃から解けるようにしておきたい」と話を続ける例を挙げて、次のように用法を解説している。
「例えば」という言葉を用いることによって、話の主題を一時的にしろ取り替えてしまうことができるのです。
日常生活でよく用いる「例えば」。どの型を用いるのかを自問し、適切な使い方をすることで、言葉の定義や意味を正しく知る大切さや効果が理解できるかもしれない。
文=ルートつつみ