思わず足を運びたくなる! 個性的で魅力的な「古書店」「図書館」のガイドブック 井上理津子著『すごい古書店 変な図書館』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『すごい古書店 変な図書館(祥伝社新書)』(井上理津子/祥伝社)

 調査会社のアルメディアによると、2017年5月時点での全国の書店数は1万2526店となっている。1999年は2万2296店だったことから、この20年弱で1万もの店が閉店したようだ。確かに全国各地の国道沿いにチェーン系大型書店が並ぶ一方で、いわゆる「町の本屋さん」は確かにどんどん減っている(気がする)。

 新刊書店の動きに連動するかのように、古書店も気づけば商店街から姿を消していることもよくある。しかし井上理津子さんによる古書店&図書館探訪記『すごい古書店 変な図書館(祥伝社新書)』(祥伝社)には、出版不況もなんのその、ひとクセどころかふたクセもみクセもある古書店が85店も掲載されている。

 明治40年に創業し、神田神保町に移転した現在は3代目が店を切り盛りする秦川堂書店のような老舗を紹介するかたわら、6畳のスペースに約2000冊の在庫を置く甘夏書店など、比較的新しい(甘夏書店は2014年4月オープン)古書店の開拓にも余念がない。また294万円の値札が付けられているアンディ・ウォーホルの「COW」をはじめ、藤田嗣治やシャガールなどが「そんじょそこらの美術館以上」なのに無造作に置かれているボヘミアンズ・ギルド(神田神保町)や、嘉永6年に創業した老舗茶舗の6代目が手がける、古本とともにお茶も販売する喜多の園(文京区千駄木)など、実にバラエティに富んでいる。一概に“古書店”と言っても、店主が違えば品ぞろえも佇まいも全て変わることがよくわかる。

advertisement

 同書には図書館も32館掲載されているが、ミステリー文学資料館(豊島区池袋)が日本ミステリー文学大賞を主催する光文社に、食の文化ライブラリー(港区高輪)が味の素の研修センター内にあったりと、こちらは企業活動と密接なものも多い。しかし一方でSM雑誌の元編集長が初代館長をつとめた、SMやフェティシズム専門の風俗資料館(新宿区揚場町)や、スタッフによる人力リサーチサービスがウリの雑誌専門図書館・六月社(新宿区高田馬場)のような、人の情熱に支えられている図書館も存在している。風俗資料館はビジター料金5500円、六月社は法人会員のみが利用できるが、入館料を取らないところも複数紹介されている。なかでも防災について学ぶことができる防災専門図書館(千代田区平河町)や消防博物館図書資料室(新宿区四谷)は、実用的な知識をつけることができそうなのでおススメだ。

 最初からじっくり読んでいくのもいいが、途中からぱらっとめくってもいい。訪ねる予定がある街の古本屋や図書館に、用事ついでに立ち寄ってもいい。井上さんがセレクトしたガイドブックとしても、使える1冊になっている。

 惜しむらくは新書だから仕方がないのかもしれないが、日刊ゲンダイ掲載時にはあったであろう写真が割愛されていたことだ。ただその分、自分の目で確かめに行く楽しみが残されている。候補がありすぎてどこに行こうか迷ってしまったら、目を閉じてぱっとページを開き、そこに載っている書店や図書館に足を運んでみてはいかがだろうか。おそらくどこに行ったとしても、古い本との新しい出会いが果たせること間違いなしだろうから。

文=霧隠彩子