作家・堂場瞬一が“男のこだわり”をハードボイルドかつチャーミングに描く『オトコの一理』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『オトコの一理』(堂場瞬一

 警察小説とスポーツ小説を中心に社会派ミステリー、ピカレスクロマン、クライムサスペンスなど、多彩なジャンルの作品を意欲的に発表し続けている作家・堂場瞬一。『オトコの一理』は、そんな堂場瞬一が“モノ”“趣味”“ファッション”に対するこだわりを描いた掌編集だ。雑誌『Tarzan』に2012年から2013年にかけて連載されていたものを書籍化した『オトコのトリセツ』の文庫化作品で、書き下ろしを一編追加した計33編を収録している。

 本作の語り手となっているのは、堂場瞬一本人を彷彿とさせる50代の作家。バッグやシューズ、手帳、クルマ、時計、ワーキングチェア、ギター、スーツ、Tシャツ、トレーニングウェアなど、自分が身につけたり、日々使ったりするものに対して、「なぜ自分はこれを身につけるのか、なぜこれを使うのか」といった価値判断がある“オトナ”の男だ。そのこだわりが語られる愛用品の中には、かなり値の張る高級品も少なくない。例えば、年下の友人Nに「機械式の腕時計を買いたい」と相談されたときに薦めるのは、オーデマ・ピゲの“ロイヤルオーク”だ。この腕時計、「大人の男の余裕を感じさせる」とのことだが、値段の方も余裕で100万円オーバー。絶句するNに対して「だけど、本格的な機械式時計を買うとなると、それぐらいはするぜ。だいたい、一生モノだから、ある程度の出費は覚悟しておかないと」なんて、サラッと言ってのけるあたりはやっぱり感覚が庶民とはちょっと違う。

 とはいえ、そのこだわりに高級品を自慢するようなスノビズムや気取ったダンディズムを感じて辟易するようなことはない。“大人のオトコはこうあるべき”というこだわりを見せつつ、1枚1万円のTシャツに「これでいいのか?」「何かが間違っている。だが、何が間違っているのか、答えが分からない」と、素直にいろいろと迷う姿はなんだか妙なおかしみがある。常に体重を気にして10年以上にわたってダイエットをしているのにエビチリを食べるときに白米の追加注文を我慢できなかったり、たびたび登場する秘書代わりの女性Mにサングラスが似合わないと笑われてイラッとしたり、薀蓄を語ってモノを薦めようとして逆に言い負かされたり――そんな“ハードボイルド”に徹しきれないところが何ともチャーミングなのだ。

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 そして、いろいろと迷いながらも“自分の好きなもの”を探し、その面倒臭さを含めて、こだわることの面白さがストレートに伝わってくる。自分がどんなものが好きなのか、そこにどんなにこだわりがあるのか、そこに「自分がどういう人間なのか」が現れることは確かにあるだろう。だから、そのこだわりはその人の生き方そのものでもあるのだ。作家・堂場瞬一が新境地を拓いた傑作短編集。

文=橋冨政彦


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