平埜生成「“自分で何かを取りに行く”ことをしなくては。僕にとって読書は、そのひとつの場所でもあるんです」

あの人と本の話 and more

更新日:2017/10/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、大河ドラマ『おんな城主直虎』で、徳川家康の長男・信康を演じる平埜生成さん。おすすめ本『十二人の手紙』の著者・井上ひさしのこと、自身の読書、そして活躍の場を広げている映像作品について……注目若手俳優の“今”を伺った。

平埜生成さん
平埜生成
ひらの・きなり●1993年、東京都生まれ。舞台『私はだれでしょう』で第25回読売演劇大賞上半期5部門ベスト5 男優賞にノミネート。出演作にドラマ『バウンサー』、舞台『DISGRACED』、映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』など多数。『亜人』が公開中。待機作に『斉木楠雄のψ難』。
ヘアメイク=寺岡慎太郎(SIGNO) スタイリング=渡辺慎也(Koa Hole) 衣装協力=ジャケット5万2000円、パンツ2万9000円(共にDOMENICO+SAVIO/JOE TOKYO Co.,Ltd TEL03-6452-3135)、シャツ1万6000円(LIVING CONCEPT/1LDK me. TEL03-5728-7140)(すべて税別)

「井上ひさしさんの故郷である、山形県川西町に、井上さんが蔵書7万冊を寄贈した遅筆堂文庫という図書館があって。そこがもう衝撃的だったんです。本に全部、ダメ出しが書いてあるんですよ。ここはこうじゃないとか、これはまずい、とか、付箋やメモがそのまま残っていて。調べないと書けないという、その凄まじいこだわりを目の当たりにしました」

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 この日、携えて来たおすすめ本『十二人の手紙』は、文庫版ではなく、奥付に“発行 昭和53年”と記された単行本。パラフィン紙のかかったその一冊は、山形で公演があった際、来館した同文庫で薦められ、近くの古書店で買い求めたという。そうした本を選ぶことといい、ページを繰る手の丁寧さといい、平埜さんからは思いっきり本好きの匂いがする。

「もともと活字は大の苦手だったんです。少しずつ読めるようになってきたのは、役者の仕事をするようになり、台本の活字を口に出して読むようになってからですね。小説も集中すると声に出して読んでしまうんです。その方がどんどん入っていけるんですよね、物語や登場人物に。自分が体験しに行く感覚になるというか、本から何かをもらうというより、本の世界へと行く感じ。なかなか集中して本を読めないという方は、この読み方、時間はかかるけれど、おすすめです」

 それゆえ小説は、電車のなかやカフェでは読めない。休日を狙って、部屋で一気読み。仕事のある日は、エッセイ本を手にしているという。

「井上ひさしさんの『ブラウン監獄の四季』、三島由紀夫さんの『不道徳教育講座』、大泉洋さん、安田顕さんのエッセイも大好きです。迷いを解消してくれるんですよね、エッセイって。人生を教えられている気がする。日常の些末なことが綴られているんですけど、それこそが、自分自身も気になっていたところだったりするから。特に僕みたいな平成生まれで、“ゆとり”と呼ばれている世代は、押さえつけられもせず、様々なものを与えられて、生きてきたので、何かを掴み取ろうとするパワーやエネルギーが、他の時代を生きてきた人よりもどこか弱い気がするんですね。それを僕自身、すごく感じているので、“自分で何かを取りに行く”ことを意識的にしなくてはと。エッセイをはじめとする読書は、そのひとつの場所でもあるんです」

 この5月に、アミューズ所属の俳優で結成された「劇団プレステージ」を退団。舞台中心のスタイルから、ドラマ、映画にも活躍の場をどんどん広げている平埜さん。舞台と映像作品、自身が思うその違いとは――。

「映像作品は、明確にゴールが定められているということですね。舞台はまったくゴールがないので。映像は、その瞬間、ダメ出しがあっても、できたらオッケー、そのシーンはもう二度と演らない。そこに楽しさや達成感みたいなものを感じています。着々とストーリーを進めていっている感じが面白いなと」

大河ドラマ『おんな城主 直虎』の撮影では、その感覚全開で臨んでいるという。

「大河ドラマに出演させていただけると聞いたときは、率直に、本当にうれしかったです。僕は時代劇を演じるのが大好きで、シェイクスピアとか海外のものも好きなんですけど、喋り方、所作などがダイナミックでかっこいい。普段、話しているような言葉を話したいというフラストレーションを募らせつつ、セリフ、動作と、時代劇の型に縛られていく感じがすごく好きなんです」

 手紙を書くときは、手書きで下書きをするという平埜さん。日常のそうしたていねいな所作がつくりだしているかのごとく、質問に返ってくるひと言、ひと言に、どこか奥行きと繊細さを感じてしまう。歴史上、あまり語られていない、ある意味、謎の人物・徳川信康を、そんな彼がどう演じるのか楽しみだ。

「そんな……僕に注目していただかなくても(笑)。大河ドラマって、僕らと同世代の人はあまり観ないそうですけれど、とにかく森下さんの脚本が素晴らしい、作り手の熱量がものすごい現場なんです。信康の登場する39話からは、菅田将暉くん演じる直政をはじめ、登場人物も、役者も、先輩方が作りあげてきたものを繋ぐように、若手が中心になっていきます。直政たちがどんどん成長していく、元気の出るストーリーは、歴史ものが苦手でも、わかりやすく楽しんでいただけると思うので、ぜひ観ていただきたいですね」

(取材・文:河村道子 写真:山口宏之)

 

大河ドラマ『おんな城主 直虎』

大河ドラマ『おんな城主 直虎』

作/森下佳子 音楽/菅野よう子 キャスト:柴咲コウ、菅田将暉、財前直見、貫地谷しほり、平埜生成、阿部サダヲ、小林 薫ほか 毎週日曜20:00~NHK総合
●徳川四天王のひとり・井伊直政を育て、乱世を逞しく生き抜いた遠江・井伊谷の女領主の物語。39話より徳川家康に奉公することとなった、後の直政・万千代が成長して登場。次世代の者たちが熱く世を快走していく。