小さな幸せの見つけ方

健康

公開日:2017/10/11

『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』(塩沼亮潤/KADOKAWA)

 往復48キロメートルの山道を1日16時間かけて歩き、それを1000日間、雪で山が閉ざされる期間を除いて足かけ9年にわたり続ける「大峯千日回峰行」を達成した超人・塩沼亮潤氏(@ryojun_shionuma)が、その荒行で得た真実を語ります。

ご飯を食べれて、屋根のある場所で寝れるだけで幸せ

 私は経済的には決して豊かではない家庭で育ちました。中学2年のときに父親が家を出ていき、母親と祖母との3人暮らしで、食べるのに苦労していた時期がありました。そのころ、よく、夕方になると、ご近所さんが「これ、食べてね」と言ってメンチカツをもってきてくれたことを覚えています。

 いまになってわかるのですが、ご近所さんがそのように親切にしてくれたのは、私たちの家族が、たいへんな状況でも、いつも明るく前向きにがんばっていたからでしょう。朗らかな笑顔で正しく生きていれば、自然と人が寄ってきて、助けの手を差し伸べてくれるものです。

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 千日回峰行で感じたこともあります。大雨の日、山中でおにぎりを食べようとしたら、激しい雨に打たれておにぎりが崩れてしまいました。雨宿りができるような場所もなく、手から米粒が流れていくのをおかゆのようにすすりながら、こう思ったのです。

「広い世界には、この1粒を口にできず、亡くなっていく人もいる。しかし、自分はおにぎりが用意できて、山を下りれば風呂もあり、布団に入って寝ることもできる。自分の望む修行を許され、時間を与えられている。私は、なんて幸せものなのだろう」

土砂降りのなか、とめどなく涙を流しました。

 欲求を満たそうとすれば際限がありません。ご飯を食べることができて、屋根のある場所で寝ることができるだけでも大変な幸福なのです。足るを知って、明るい心で生きていくことは、自分の心をコントロールするための素晴らしい練習になります。

心と心がつながる瞬間に、精神的な幸福は得られる

 ストレスの原因に、人間関係をあげる人は多くいます。職場に気の合う人がいない、本音で話せる相手がいないなど、「人間関係に恵まれない」という悩みがあるとしたら、視点を変えてみましょう。自分を省みることなく、すべてを周囲のせいにしてはいないでしょうか。もちろん、昨今“モンスター”と呼ばれるような本当に困った人も存在するのかもしれませんが、「もしかしたら、自分も原因ではないだろうか?」と振り返ってみることも大事です。

 私にもかつて、どうしても好きになれない、大嫌いな相手がいました。千日回峰行などの厳しい修行をするうちに自分の我はとれて、人に対する好き嫌いは少なくなっていったのですが、最後に一人だけ、どうしても受け入れることのできない苦手な相手が残ったのです。仏の教えを伝える立場の僧として、それでは説得力がないので、私にとっては大きな悩みでした。

 この課題を克服できないまま、数年が経ったとき、答は突然、見つかりました。「自分のなかにわずかでも嫌う心があれば、必ず相手にその雰囲気が伝わってしまうのではないか」と気づいたのです。その相手と久しぶりに再開したとき、それまでとは違う、優しい声と笑顔でその人に話しかけてみました。最初はいつものように、低い声で、そっけない返事しか返ってこなかったのですが、それでもめげずに会話を続けていくと、ある瞬間に相手の目もと、口もとがわずかにほころんだのです。

誰一人として、この世に必要ない人はいない

 瞬間の出来事でしたが、相手の“心”をたしかに感じました。そして、長い間、苦しんでいた胸をつかえが、心の底から感謝の気持ちに姿を変えたのです。
相手のことを苦手と感じる根本には、自分自身の我があります。肝心なのは「嫌いな人をなくすように努力しよう」という思いを持ち続けることです。

 孤独を感じるときや、大きな失敗をしたときは「自分が嫌い。自分には生きる価値がない」といった悩みに苛まれます。自己肯定感の低さには、愛情不足や幼少期のトラウマなども影響するので、対処が容易ではないケースもありますが、一つ確実に言えるのは「あなたに与えられた人格、個性は、唯一無二で尊いものだ」ということです。
人間一人ひとりがかけがいのない存在であり、どの人に価値があって、どの人に価値がないということはありません。誰一人として、この世に必要ない人はいないということです。

 この世の中で、私たちには自分自身の人生を大切にする義務があります。そのためにおすすめなのが、私が身をもって実感した「大峯千日回峰行」のエッセンスを取り出し、誰しもが無理なく実践できるようにした心のエクササイズである歩行禅です。詳しいやり方は『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』でわかりやすく解説しておりますので、是非読んでみてほしいと思います。

 そして同時に、まわりも幸福にしないといけません。物質的な幸福には際限がないけれど、精神的な幸福は、人と人との心がつながり合っていると実感できたとき、完全なものになります。誰か一人でもいいので、大切な存在を見つけて、心と心がつながる瞬間をもってください。そういう時間を積み重ねることによって、自分自身の価値は実感できるはずです。