美しすぎる日本の博物画「江戸博物文庫」シリーズ編集者インタビュー
公開日:2017/10/13
日本の博物画って、西洋のそれとはまた違う独特の味わいがあって面白いんですよ。たとえば西洋の博物画は基本的に「完璧な状態のもの」を「きっちり」描いているのですが、日本の博物画は描き手が見たありのままの姿を描いていたりする。植物の葉がちょっと朽ちていたり、魚のウロコが取れていたり、生き物の病気の部分なんかもそのまま描いていたり。そういったものにも価値を置く美の許容範囲の広さは、日本ならではですよね。浮世絵などのように「きっちり描く」のを野暮として、リアルをデフォルメする文化も下地にあるのでしょうか。
その伝統は現代日本のアニメーションにまで受け継がれているのかもしれません。ハリウッド・アニメでは人間の顔も立体的に描こうとしていますが、ほとんどの日本アニメの表情は平面的で、その繊細な自然描写と見事なまでの対比を見せています。西洋と日本では「リアル」の捉え方が、どこかで大きく違っているのかもしれませんね。
これらの博物画は「本草学」(薬効がある動植物を研究する学問)がベースになっています。でも、ただ単に「役に立つもの」を学問として記録しただけでないのだろう。集めているうちにどんどん対象に惹かれていったのだろうなと、これらの絵を見ていると感じます。だから本シリーズも軽い気持ちで楽しんでいただけるように作りたかった。それぞれの絵に添えた解説は私が書きましたが、なるべく堅苦しくならないように心がけました。
次回作はまだ構想中ですが、実在しない生き物を描いた博物画を集めたりしたら面白そうだなと。爆発的に売れるかというとなんともいえないのですが(笑)、こういった面白いものを、後世に残していきたいという気持ちは常に抱いています。
群馬県出身。札幌で出版活動を目指していたが、1979年に松岡正剛主宰の遊塾に参加、そのまま工作舎の編集スタッフとなる。自社出版物をはじめ、企業パンフレット等、編集制作物は多数。著書に『はかりきれない世界の単位』(創元社)『B―ビートルズの遊び方』(牛若丸)等がある。
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫