未婚時代に幸せになるコツは「他者と比べないこと」【『生涯未婚時代』著者インタビュー後編】

恋愛・結婚

公開日:2017/10/12

『生涯未婚時代』(永田夏来/イースト・プレス)

 『生涯未婚時代』(イースト・プレス)著者で社会学者の永田夏来さんによると、2015年の生涯未婚率は男性で23.4%、女性で14.1%となっていて、2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が未婚のまま生涯を終えるという予測もあるそうだ。

 もはや結婚していない=ダメ人間という時代ではないというが、それでも周囲の40代の独身者を見渡してみると、「結婚しなきゃ人生終わりだ!」と焦っている人も多い。彼ら彼女らにつける薬は、果たしてあるのだろうか?

■他者と比べないのが、未婚時代の幸せのコツ

「この世代はベビーブームで受験も大変だったし就職しようとすれば氷河期だったりと、外から叩かれることが多い人たちでした。最近でも同年代のSMAPは解散に追い込まれたし、かつて宮沢りえさんは思いを遂げることができなかった。突き抜けたことをしようすると全力でバッシングされるケースが多かったので、セルフ忖度がはたらくというか、人と違うことをするのを恐れているところがあります。でも真面目に地道に生きていても必ず報われる訳ではないし、『こうでなくてはならない』と思い込んでいても、幸せにはなれません。まずは落ち着いて、自分にとって何が大事なのかを整理してほしいと思います」

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 家庭を持って安定したい、落ち着きたいという気持ちが強いと、数年のうちに離婚する“スターター・マリッジ”をしてしまうこともある。離婚自体は不幸だと思わないが、「結婚とはこうあるべき」に縛られて焦ると、結局は自身を苦しめることに繋がる。だから永田さんは、自分が抱えている不安感や焦燥感は、結婚すれば本当に解決するかを丁寧に考える必要があるという。

「今までの社会は、自分で自分を満足させることを阻害してきた側面があると思います。評価の基準は他者との比較で、他者と常に競わせてきました。だから『あの人がしているのだから私もしないと恥ずかしい』といった他者基準で、婚活や妊活をしている人もいるのではないでしょうか。でもそれは前時代的な発想だし、そろそろそこから降りてもいい時期だと思うんです。

 先日、phaさんという京大出身でシェアハウスを経営されている方にお会いしましたが、定職に就かずに生きている彼は、自分にとってラクだとか苦しくないかとかが判断の基準でした。周りと比べてどうこうではなく、自分の感覚がすべてで。彼の生き方にヒントを得た気がしました」

■過去に好きだったものを見て、感覚を取り戻す

 人はなかなか自分の感覚に自信が持てないもので、「本当にこれでいいのかな」と悩み、結局他人の意見を取り入れてしまうことも多い。どうすれば自分の感覚に自信が持てるようになるのだろうか。

「これは哲学者の千葉雅也さんも言っていたことですが、かつての自分が好きだったものを思い出し、年表を作るといいと思います。私の場合はバンドでしたが、それこそ昔集めていた雑誌の切り抜きなどを見返していくうちに、人格形成に何が寄与したかがわかるようになりました。

 最初は『こんな中二病みたいなものはもう卒業だ!』と思うかもしれないけれど、振り返るうちに『やっぱりいいな』と思う瞬間もあるはず。思春期カルチャーが身を助けるというか、好きなものって原点だと思うので、何歳になっても自分を支えてくれるんです。でも意識して振り返らないと『あの頃はあんなひどい目に遭った』とトラウマもよみがえってしまうので、そこは注意してください。とはいえ私も最初は辛い歴史もセットで過去の記憶がよみがえってきましたが、悪いことばかりではなかったと気づくこともできたので、好きなものの力は偉大だと思います」

 永田さんは益田ミリさんのマンガ『結婚しなくていいですか。――すーちゃんの明日』(幻冬舎)に描かれているような姿こそが、生涯未婚時代に大事なことだと語る。

「主人公のすーちゃんは35歳で独身で、1人暮らしをしています。出産を控えた友人や祖母の介護をしている友人と交わるうちに、自分とは違う人生を生きる友人を包摂することで、自身も包摂されていく未来像を描いています。一連の『すーちゃん』シリーズには、自分とは違う選択をした人々に寄り添いながら、それぞれの人生を尊重する個人の姿があります。このように考えることができる個人を増やすことが、生涯未婚時代を明るく照らしていくのではないでしょうか」

 自分の感覚を大事にして選択をした結果、周りと違う生き方をすることは、決して「かわいそう」ではない。なのに自分で自分を追い込み、傷ついていたら人生がもったいない。それぞれ「生き方の違い」でしかないのだから、ともに相手を尊重することが、これからの未来を明るいものにするのかもしれない。

▲著者の永田夏来さん(撮影:charlie)

取材・文=今井 順梨