一夫一婦制は「弱いオス」にセックスの機会をあげるということ!? 科学者が明かす、恋愛・結婚のシビアな真実

社会

更新日:2017/11/6

まず、科学者として「現代社会における結婚とは何か」と考えた

石川: 吉田さんの場合は、どうやって結婚したんですか?

吉田: 僕は20代後半の男性にめちゃくちゃありがちな、「彼女がいるけど結婚するつもりはべつにない、でも別れるつもりはない」っていうパターンでした。と同時に、僕は当時から「やったことがないことをしたいタイプ」でもあったんですね。そうしたら嫁さん=そのときつき合っていた彼女に「やったことないことやりたいタイプだよね?」「そう!」「結婚したことある?」「はっ、ない!……じゃあしようか」という経緯で結婚しました。よくできた話すぎて申し訳ないですけど。ただ、そこからは「ならば世の中でベタとされていることは全部しよう!」と思って、つき合って千日目にスイートルームをおさえて、花束渡して、プロポーズしましたよ! ドンベタですよ(笑)。

石川: うおお! 僕の場合は……全然違いましたね。

吉田: でも石川さん、今は結婚されていて、お子さんもいますよね? ダイエット研究に捧げた20代から、どうやって結婚に至ったんですか?

石川: 僕はまず、科学者として「現代社会における結婚とは何か」と考えたんですね。

吉田: いいですね、最高(笑)。

石川: 現代社会では一人を選ぶことを「結婚」といいますよね。ただ昔は違っていて、遺伝子を調べると基本的には男一人に女性が2人っていうのが平均だったんです。

吉田: え、そうなの?

石川: たとえばアフリカのコンゴ川の北側にいるサルの集団では、一つの群れの中で生まれる子どもの半分から6割くらいはボス猿の子なんですよ。

吉田: じゃあボス猿以外、ほとんどのオス猿は子どもをつくれないと。

石川: 人間も昔は王様に10人の妾、みたいなケースが今よりもっと多かったんですよ。でも最終的には一夫一婦制という僕らが「結婚」と呼ぶ形式になった。「この経緯が何を意味しているか」ってことを僕はまず考えるんです。遠いんですけど(笑)。

吉田: 自分が結婚するために、その思考プロセスを踏んでるんですよね?

石川: はい。一夫一婦制が意味するところを納得しないと、先に進めないんです。……みんなはこう考えないんですか?

吉田: どうだろ(笑)。でも僕はわりと共感しますよ。

ボノボの世界はセックスがありふれている

石川: それで、さっきのコンゴ川の北側にはサルとは別に、南側にはボノボっていう違う種類(のチンパンジー属)が暮らしてるんですよ。サルとボノボを比較すると、サルはメスの発情期間が短くて、一年の中でもほんとわずかな期間しかない。そうすると、オス側から見るとセックスできるかどうかっていう希少資源の争いになる。対してボノボはいつでもセックスできる。セックスがありふれてるんですよ。

吉田: セックスの供給量が全然違うんですね。

石川: セックスという資源が希少なのか、ありふれているかによって、何人と結婚するのかが決まってくるんだなと思ったんです。

吉田: じゃあボノボは一夫一婦制なんですか?

石川: それに近いですね。そこから一夫一婦制とはつまり、他の人たちに、セックスする機会をあげるってことなんです。

吉田: 譲るということ?

石川: そう、本当だったら一人の強い男が100人の女を手にしてしまうと、99人の男はセックス(=結婚)できない。たぶん昔はそういう時代だったんです。男にとっては。でもヒトの世界では次第に、一人が全部取っていく形から、100人が100人ともそれぞれお相手を見つけられる時代に変わっていった。それって、要は「多様性」なんです。

吉田: ん? もうちょっと教えてください。

石川: 進化の本質は、多様性を生み出すことにあると思ってます。多様性が生まれると、みんながそれぞれ生活できるんです。今の社会も、そういう意味での多様性がどんどん生まれている。リア充ではなくてもオタクコミュニティではやっていけるとか、いろいろあるじゃないですか。多様な人が存在できるため、希少な資源を争わなくて済むため、つまり平和な世の中を築くために一夫一婦制という制度ができたんだな、と思ったんです。

吉田: 社会のパフォーマンスの要請、社会全体が豊かになるためってことですか?

石川: そう。一人が富を独り占めして残りの人が苦しむのではなく、みんなが幸せになる制度としての一夫一婦制なんだ、と僕は結論づけたんです。

「いい人がいたら結婚」だと一生結婚できない

石川: 次の段階として、「人はいつ結婚するのか」という問いを考えたんです。シカゴ大学のゲーリー・ベッカー教授がこの研究をしていて、彼は結婚とか恋愛とか人間の日常的なことを経済学でモデル化したことでノーベル賞をとっている人なんですね。

吉田: おお、おもしろそう。超読みたいです。

石川: それ以外にもいろいろ研究を見た結果、「結婚は決断が先にある」と思ったんです。つまり、「いい人がいたら結婚しよう」と言ううちは、一生結婚できない。結婚するという意思決定が先にあって、意思決定をした人だけが結婚できてそうだな、と。

吉田: それってまさに「婚活」じゃないですか。

石川: そうですよね。よく「いい人いたら紹介してよ」って言っている人がいますけど、それじゃあ無理なんだな、って思ったんですよ。紹介以前に覚悟が足りん、まず意思決定をしろ、と(笑)。だから僕は意思決定をしたんです。31歳の1月1日に「よし、結婚してみよう」と決めました。当時、つき合っている人とかいませんでしたけど。

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吉田尚記ポータル「アナウンサーなのに。」

取材・文=阿部花恵 写真=川しまゆうこ
※本連載は書籍から一部抜粋し転載しています

石川善樹(いしかわ・よしき)
1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーヴァード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。2017年7月、子ども向け理系絵本『たす』(白泉社)が刊行。また近日『〈思想〉としての予防医学』が刊行予定。

Twitterアカウント @ishikun3

吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞。「マンガ大賞」発起人。ラジオ『ミュ~コミ+プラス』(ニッポン放送)、『エージェントHaZAP』(BSフジ)などのパーソナリティを務める。マンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、2017年には自ら新型ラジオ『Hint』のクラウドファンディングを3000万円以上集めて成功させた。著書に『ツイッターってラジオだ!』(講談社)、『アドラー式「しない」子育て』(白泉社/向後千春との共著)、13万部を突破した『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)など。

Twitterアカウント @yoshidahisanori