“12の館”で起こった難事件…。目移りするほど豪華な「新本格30周年記念」アンソロジー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11



 今年(2017年)は「新本格ミステリ」ムーブメント30周年にあたるメモリアルイヤーだ。

 それを記念して、講談社より書き下ろしアンソロジー『謎の館へようこそ 新本格30周年記念アンソロジー(白・黒)』(文芸第三出版部編/講談社)が2か月連続で刊行された。

 新本格を愛してやまない総勢12人の作家が一堂に会したこのアンソロジーのテーマは、ずばり「館」。1987年に刊行され新本格の先陣を切った『十角館の殺人』が、奇妙な洋館での連続殺人を描いた“館もの”のミステリであったことを思い起こすなら、これほどぴったりのテーマはないと言えるだろう。

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 それにしても惚れ惚れするほど豪華なアンソロジーだ。注目の新鋭から20年以上のキャリアを誇るベテラン作家まで、ミステリ界の“いま”を代表するメンバーが勢揃いしている。ミステリファンなら目次に並んだ作家名・作品タイトルを眺めているだけで、思わず舌なめずりせずにはいられない。たとえるならこのアンソロジーは上下段、美味しそうな料理がぎっしりとつまった重箱である。以下参考までにその“お品書き”を記しておこう。

■『謎の館へようこそ 白』
東川篤哉「陽奇館(仮)の密室」:天才マジシャンが建築中の邸宅で殺害された。密室で彼を絞殺したのは何者なのか? 名探偵が謎に挑む。

一肇「銀とクスノキ ~青髭館殺人事件~」:訪れる人が忽然と消えてしまうという奇妙なお屋敷・青髭館。主人公はクラスメイトの七雲をその屋敷に誘った。

古野まほろ「文化会館の殺人――Dのディスパリシオン」:ホールで開催された高校生の吹奏楽コンコール。演奏が盛りあがるなか悲劇が起こる。

青崎有吾「噤ヶ森の硝子屋敷」:天才建築家が遺した硝子屋敷は、すべてがガラスで作られたゴシック風の建築だ。その屋敷で火事と殺人事件が発生した。

周木律「煙突館の実験的殺人」:見知らぬ部屋で目を覚ました人々。政府の実験施設というその建物から脱出するために、謎解きに挑むのだが……。

澤村伊智「わたしのミステリーパレス」:住宅街に建つまるでセットのような洋館「ミステリーパレス」。フリーライターはその所有者に取材を試みる。

■『謎の館へようこそ 黒』
はやみねかおる「思い出の館のショウシツ」:ディリィージョン社の新人社員・美月が子供の頃遭遇したという館の消失事件。果たしてその真相は?

恩田陸「麦の海に浮かぶ檻」:北の原野に建つ全寮制の学校。外界から隔絶された「檻」に、タマラというミステリアスな少女が加わった。

高田崇史「QED~ortus~ ―鬼神の社―」:藤沢の神社へ豆まきを見物にきた「オカルト同好会」メンバー。鬼を祀ったその神社で事件が発生する。

綾崎隼「時の館のエトワール」:時間が狂う館。私たちが修学旅行の宿泊先に選んだのは、そんな噂があるホテルだった。奇跡は本当に起こるのか。

白井智之「首無館の殺人」:かつて惨劇の舞台となった首無館。その事件を調べに来た女子高生グループは、思いも寄らない事件に巻きこまれてしまう。

井上真偽「囚人館の惨劇」:夜行バスの転落事故が発生。生き残った13人は山奥の洋館に避難する。そこはネットで噂の「囚人館」なのだろうか?

 以上12作。仰天の大トリックあり、緻密に練りあげられたロジックあり、人気シリーズの外伝的作品も入っている。もし「館ものってこんな感じでしょ?」という固定観念を抱いている人がいたら、本書収録作の自由さ、大胆さにきっと驚かされるに違いない。先頃刊行された『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』とともに、現代ミステリの最先端に触れられるアンソロジーだ。

 謎と論理の魅力、そして自由で挑戦的な作風で読者を魅了してきた新本格スピリッツは、誕生から30年を経た今日も脈々と生きつづけている。

文=朝宮運河