深夜に人知れずレールを取り換える職人たち――その仕事は新幹線の安全で快適な運行のため!

暮らし

公開日:2017/10/30

『乗りものニュース 新幹線スペシャルガイド』(実業之日本社:編/実業之日本社)

 読者諸氏は、夜中の線路で「保線」と呼ばれる工事作業が行われているのを見たことがあるだろうか? 終電が過ぎ、始発までの4~5時間ほどで、決められた区間を保守点検するのだから時間との戦いだ。在来線同様、新幹線もこうした保守点検に支えられているが、その線路は一般人が立ち入らないよう、全線が高架や盛り土の上に敷設されており、そうそう作業を見られるものではない。どんな作業をしているのか気になっていた折に見つけた一冊が、この『乗りものニュース 新幹線スペシャルガイド』(実業之日本社:編/実業之日本社)である。

 本書はJR各社の新幹線車両と路線解説は勿論、車内販売の秘密に迫ったり、整備工場であるJR東海浜松工場も紹介されたりと、新幹線を多角的に知ることができる。中でも特筆したいのは先述した保線作業の図解だ。線路の下に敷かれた石の「道床(バラスト)」と、新幹線用線路の特徴でもある「ロングレール」がいかに取り換えられるかがよくわかる。なお交換作業を専門用語で「更換」としているので、本記事中でも踏襲したい。

 ところで、道床の役割とはなんだろうか。実は列車の荷重を路盤に広く分散させ、通過時にクッション性を持たせ乗り心地も左右する需要な役割を担っているのだ。昨今は、バラストの代わりにコンクリート板で支えるスラブ軌道も増えているが、東海道新幹線は建設時に技術が確立されておらず、路線のほとんどは道床軌道となっている。そして、道床に用いるバラストはレールと枕木を支え続け劣化していくので、定期的に更換するのだが、深夜の短時間で作業を終えねばならない。

advertisement

 そこで活躍するのが「NBS」と呼ばれる新方式道床更換用保守用車である。工事用重機のような黄色を思い浮かべるかも知れないが、このNBSは鮮やかな青と黄色に塗られており、実に爽やかな印象だ。性能面から見ても、古いバラストを回収しながら、積載している新しいバラストを敷設できるので、作業効率は導入前より大幅に向上している。しかし、それでも1晩で作業できる距離は60mほどだから大変だ。ちなみに東海道新幹線の東京駅~新大阪駅の路線距離は515.4kmに及ぶという。

 道床更換とともに注目したいのがレール更換である。新幹線のレールは、「ロングレール」と呼ばれる継ぎ目のない構造で、車輪が振動せず静かで高速に走行できる。在来線で聞こえるガタンゴトンという音は、継ぎ目を車輪が通る音なのだ。勿論、最初から全路線が繋がった状態で工場から出荷される訳ではなく、1本150mものレールを用いて現場で繋げていく。在来線のレールが1本25mだから、いかに長いものかがわかるだろう。

 それを運ぶのが新幹線ロングレール輸送用機関作業車「LRA-9200」。この車体もNBS同様に青と黄色で塗られている。先頭の大型ディーゼル機関車は、重いレールを積んだ貨車を牽引するだけでなく、車体下部左右からそのレールを引き出し現場に設置できる優れもの。ただし、旧レールの切断や新レールの溶接はやはり、人の手で行わなければならない。とはいえ、一晩で600~800mの更換作業ができるのは、LRA系があってのことだ。

 ところで、新幹線の保守車両といえば923形「ドクター・イエロー」を思い浮かべる人も多いだろう。運転時刻が公表されず、めったに見られないことから「幸せの黄色い新幹線」と呼ばれたりもするが、その役割はあくまでレールや架線の点検・測定である。そこで見つけた不具合をNBAやLRA系たちが修理するのだ。

 新幹線の話題となると、北陸新幹線をメインに活躍する最新型の「E7/W7系」や2020年に営業運転を開始予定の「N700S系」など、華やかな旅客列車に目が行きがちだが、その陰で安全運行と快適さを支える人々と車両について少しでも知ることができれば、新幹線の魅力がより一層、深まるのではないだろうか。

文=犬山しんのすけ