「セックスも結婚も、できないんじゃなくてしないだけ」 若者たちが使い分ける“3つの欲”
公開日:2017/10/31
現在、日本全国でオトナたちが若者を結婚させようと躍起になっています。たとえば長野県長野市は2016年秋「長野県婚活支援センター」を開設して専従職員4人が配置し、静岡県富士宮市では“出会いの場”として同窓会の開催に助成金を出し、同県三島市では市公認の結婚世話人の養成がはじまっています。みなさんがお住まいの自治体でも、何かしらの婚活事業が行われているかもしれません。
政府はこうした地方自治体主催の婚活イベントへの交付金支出を2017年度には倍増し、さらには企業や団体が実施するイベントにも広げることが検討されています。すべては少子化解消、あるいは結婚によって地域に定住する若者を増やすため……などというオトナの思惑とは裏腹に、若者は必ずしも「結婚したい」と思っていないことが各種調査で明らかになっています。
■年々低下する男性の結婚願望
国立青少年教育振興機構による、全国の20、30代を対象とした「若者の結婚観・子育て観等に関する調査」では、2008年の調査と比べて結婚願望がある男性の割合が低下し、「結婚したくない」と回答する男性は約10%から約20%に倍増。女性の「結婚したくない」約13%も、前回調査から5ポイントアップしています。
国立社会保障・人口問題研究所の「2015年出生動向基本調査」でも「一生結婚するつもりはない」と回答した未婚男性は12%をマーク。1987年の調査開始以降、回を追うごとに増えつづけ、今回ではじめて1割を超えました。未婚女性の同回答は8%でしたが、時代とともに増えていることには変わりありません。
一方、「2015年出生動向基本調査」では、異性との性交渉の経験がない未婚者の割合も話題を集めました。18~34歳の未婚男性の42%、女性の44.2%が性交経験がナシ。今夏発売された『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子、二村ヒトシ著 幻冬舎)のタイトルが予言しているとおりの状況に、すでに突入していることが明らかになりました。
■進化をやめないマスターベーション産業
同書でも「セックスは贅沢品になった」といった内容が記されていますが、気づけば結婚することも子どもを持つことも贅沢品となっています。
かといって、人は生きているかぎり欲望を消せません。ここからはまったくの私見ですが、今後は「性欲」と「性交欲」と「生殖欲」を分けて考え、解消できるものだけ解消し、そうでないものはできるだけ封印するという習慣が定着していくのではないでしょうか。
性交経験がない若者の増加=若者の性欲低下とはかぎりません。性欲、男性の場合は射精欲ともいえますが、これはひとりでも解消できます。AVが売れなくなったといってもインターネットで無料動画はいくらでも視聴できますし、アダルトVRをはじめとする新しいメディアも今後伸びると予想されています。女性の性欲に対しても、女性向けのAVやアダルトグッズなど、これまでにないアプローチが見られるようになりました。マスターベーション産業は、まだまだ元気です。
■「性交欲」と「生殖欲」とのあいだに線引きを
性交欲はパートナーと満たすもので、セックスという贅沢品は手に入れられても、その先の結婚、子どもを持つに至れないのであれば、「生殖欲」とははっきり線引きをする必要があります。
すでにその兆しは見られるようで、「2015年出生動向基本調査」には「年齢別にみた、性経験のある未婚者の避妊の実行状況」という項目もありますが、これを見ると男女とも若い世代ほど避妊していることがわかります。20~24歳では男性91.6%、女性89.7%が避妊しているのに対し、30~34歳では男性84.1.%、女性81.9%にダウンします。
■「できない」ではなく「しない」
世間で思われているより、若者は“望まない妊娠”に関するリスク管理はしっかりしているようです。いわゆる「デキ婚」にしてもほんとうに「デキちゃった」から結婚するカップルもいる一方で、「デキてもいい」と思っていたらデキたから結婚する、というカップルも相当数いることは容易に想像できます。生殖欲を満たしてよい条件が、整っているのです。それとは逆に、結婚していてもさまざまな事情で「子どもを持てない、持たない」カップルは、自分たちで生殖をしっかり管理していく必要があります。
贅沢品になるほど、人はそれに憧れます。が、背伸びしてそれを手に入れようとすると足元がゆらぎ、転倒してしまう可能性があります。しかも、人生に大きな影響を及ぼす転倒です。何事にもコスパを重視する傾向のある現代の若者はヘタを打ってケガをしないよう、三つの欲を使い分けていくことになるのかもしれません。「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」というドラマがありましたが、「セックスできないんじゃなくて、しないんです」という時代も、もう始まっています。
文=citrus フリー編集&ライター 三浦ゆえ