生産性と効率を飛躍的に高める発想法――一流は24時間をどのように捉えているのか!?
公開日:2017/11/5
働き方改革が浸透すると、一定の時間で成果を上げるために、生産性を高め、効率化を図ることがさらに求められることになります。一日に与えられる時間は、誰もが例外なく24時間です。スケジュール管理の達人は、無駄を徹底的に省くことこそが、目的達成の最強の方法と語ります。
野口悠紀雄氏(@yukionoguchi10)は東京大学工学部を卒業後、大蔵省に入省し、米イェール大学で経済博士号を取得。一橋大学や東京大学で教授を歴任し、現在は早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究所センター顧問。ビジネス指南の著作も多くがベストセラーになっており、考案した『「超」整理手帳』はスケジュール管理を飛躍的に向上させるとともに、無駄な時間のあぶり出しも可能にする優れたアイテムだ。
1日24時間は誰にも平等
生産性と効率を高めることは非常に重要です。生産性や効率というと、“カイゼン”に代表されるような、製造業の生産現場で重視されることと考える方がいるかもしれませんが、私たちが日常的に行っている仕事についても、生産性と効率を高めていく必要があります。
まず手をつけるべきは、時間の使い方、スケジュール管理です。人は誰でも一日に24時間が与えられていますが、その24時間をどのように使うかで、できる仕事の量と質が大きく変わってくるのです。
私の一日の過ごし方は、意識して同じようにしています。午前、午後、夜に大きく分けて、それぞれにやるべきことを決めているのです。
午前は、私の主たる仕事である原稿の執筆に充てます。つまりアウトプットの時間です。午前中に何時間かを確保できれば、何者にも妨げられることなく、アウトプットに集中できる時間帯となるため、生産性は上がります。
打ち合わせをしたり、取材を受けたりといった外部との接触や移動が必要な仕事は、午後にまとめます。また、仮に、打ち合わせや取材が複数あるとしたら、可能な限り調整して、同じ日に集中させます。そのようにして、午後にも一人で仕事のできる時間が確保できたなら、やはり原稿を書きます。
夜はインプットの時間です。主に本を読んでいますが、疲れているときは映画を観ることもあります。なぜ、夜のインプットが大事かというと、インプットしたものは寝ている間に消化できると考えているからです。寝る前に情報や知識をインプットすれば、就寝中に、それらをもとにした思考が行われます。人間は24時間中ずっと、脳を使っているのです。
就寝中に考えたことをもととして大きな実績を残した人は、少なくありません。20世紀を代表する数学者フォン・ノイマンは、寝るときメモ帳をそばに置いておき、朝目覚めたら、メモ帳に突進して、就寝中に浮かんだアイデアを記録していたそうです。また、近視だったシューベルトは、就寝中に得た着想を眼鏡を探しているうちに忘れてしまわないように、眼鏡をつけたまま寝ていたと伝えられています。
テレビと会合は時間の無駄使いの最たるもの
寝る前のインプットが就寝中の思考に結びつくことが多いので、私は寝る前の時間をとても重視しています。はっきり言えるのは、“決してテレビを観てはいけない”ということです。テレビを観ていては、インプットの時間にはなりません。
時間を有効に使えないという意味で、会合、とくに政府の会合は徹底的に排除しています。相手も必ず断られるとわかっているから、声をかけられることもありません。
会合に出ないのは、時間の無駄だからです。もちろん、2時間の会合で有意義な情報を得る機会がゼロとは言い切れません。しかし、得られるか得られないかわからない情報を期待して2時間を費やすのはあまりに非効率です。それに、大勢の出席者がいるから自分の意見を言う時間は少なく、フラストレーションが溜まります。会合ほど非効率なものはないというのが私の持論であり、これは一般企業でも同じでしょう。
会社に勤めている人と比べて、私はかなり自由に時間の使い方を決められるため、毎日ほぼ決まった過ごし方ができているのも事実です。しかし、午前、午後、夜というように一日を大きく分け、それぞれにテーマを設定し、それをもとにスケジュールを組むのは、生産性や効率を高めるために極めて有効だと思います。
私が考案した『「超」整理手帳』は、8週間分のスケジュールを一覧できることが大きな特長です。8週間分をパッと見たとき、いくつかの特定の日の午後は予定が集中して黒っぽくなり、それ以外の日の午後や、午前、夜は真っ白というようなスケジュールができれば、それは能動的なスケジュールを組むことができたことを意味し、仕事の効率化に成功しているといってよいでしょう。
「超」整理法の正しさが、アルゴリズム理論で証明された
自らが主体性をもつ、能動的なスケジュール管理が求められる理由を突き詰めるなら、時間こそが重要なものであるという真実に行き当たります。私自身、若いときは意識しませんでしたが、あるときから“時間は有限である”ということを強く意識するようになりました。
これは何度も本に書いてきたことですが、きっかけは、“モーツァルトの音楽をすべて聴くことはできない”と、ある日、こつ然と気づいたことです。各作品を一度だけ聴くというのなら、ケッヘル番号626の未完の「レクイエム」まで聴くことも可能かもしれませんが、同じ曲でもさまざまな演奏がありますし、いろいろな演奏を聴き比べることに意味のある場合もあります。そういうことを考えると、モーツァルトをすべて聴くことは不可能なのです。それはすなわち、自分の持ち時間が有限ということです。
時間は有限ですから、無駄を省くことが生産性を高め、効率化を進めることにつながります。前に述べた、“テレビは観ない”“会合には出ない”といったことを実践すれば、自ずと効率化は図られるのです。
仕事の一環としてやっているようで、実は時間の無駄になっていることもあります。その典型が整理です。仕事に必要な資料がたくさんあり、それをどうやって整理したらよいかということに、私はずっと悩まされていました。それに対して出した結論が、『「超」整理法』です。この考え方を端的に言うなら、“整理はするな”“時間順に並べよ”ということです。整理という余計な時間を使わずに、新しい資料を先頭に出すことが、生産性を高める正しい方法だと確信しています。
たいへん嬉しいことに、アメリカのコンピュータ科学の専門家であるブライアン・クリスチャンと認知科学の専門家であるトム・グリフィスが、『「超」整理法』の正しさをアルゴリズム理論を用いて数学的に証明してくれました。私はメールと電話でインタビューを受けたのですが、二人の共著『アルゴリズム思考術-問題解決の最強ツール』の翻訳が日本でもこの10月19日に刊行されます。
仕事をするうえで何が大事かを追求すれば、無駄なものが浮き彫りになります。生産性や効率化を高めるために必要なのは、常識にとらわれない発想だということができるでしょう。
・著者プロフィール
野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。著書に『1940年体制』(東洋経済新報社)、『情報の経済理論』(東洋経済新報社、日経経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、吉野作造賞)、『「超」整理法』(中公新書)、近著に『異次元緩和の終焉』『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社)、『仮想通貨革命で働き方が変わる』(ダイヤモンド社)、『世界史を創ったビジネスモデル』(新潮選書)、『日本経済入門』(講談社現代新書)など多数。
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