「現代は、かつてなく 訃報に触れる 時代だと思うんです」『もう生まれたくない』長嶋有インタビュー
更新日:2017/12/6
この小説を着想したきっかけは、「最近、妙に訃報が目に入るなあ」という実感からでした。ネットニュースやSNSから「誰々が死んだ」という情報が毎日飛び込んでくるじゃないですか。ジョン・レノンやダイアナ妃レベルの有名人ならこれまでもニュースになっていたけど、初めて名前を聞くような人の訃報にも触れるようになっている。死の総量は変わっていないはずなのに、現代は「人が死んだ」という情報だけがずいぶん増えている時代なんだなぁ、と思えてきて。
訃報に触れても、正直すぐ悲しみが生じるわけではないんですよね。最初に出てくる言葉って、実際は「あっ」という驚きじゃないでしょうか。でも最近は一斉に追悼ツイートなどが流れたりして「みんなよく悼むなぁ」とか思ってしまったり。とにかく、誰かの訃報に反応する人々のさまざまなありようを描いてみようと思ったんです。
著名人の訃報って、いってしまえば「ゴシップ」でもあります。そこに向けられるのは、確かに下世話な興味かもしれません。でも、文学が人の営みを書くものだとしたら、「ゴシップは下世話だから文学に関係ない」なんてわけはない。まだ誰も手をつけていないテーマっぽいし、僕が書いてみようと思って。
タイトルの『もう生まれたくない』は本編を書く前に決めてました。親戚が集まった席で母方の祖父がふと口にした言葉なんです。さりげないふうに言っただけなのですが、なんだかとても印象に残っていて。もう亡くなってしまったので聞くことはできませんが、いったいどういう気持ちで言ったんでしょうね。
1972年、埼玉県生まれ。作家。2001年『サイドカーに犬』で文學界新人賞を受賞し作家デビュー。02年『猛スピードで母は』で芥川賞、07年『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞、16年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞。
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫