太賀「狂気の入口は、誰にでも見えているような気がします」
公開日:2017/11/6
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『南瓜とマヨネーズ』で、ミュージシャンの青年・せいいちを演じた太賀さん。おすすめの戯曲『水の戯れ』で太賀さんが自分を重ねた役とは?
敬愛する劇作家・岩松了の『水の戯れ』を舞台で二度観て、戯曲を読んだ太賀さん。彼が自分を重ねたのは、意外にも、冴えない中年男の春樹だった。
「不器用で、情けなくて……。純粋な愛情があるゆえに狂気をはらんでしまう人ですよね。自分は春樹がしたような(狂気的な)行動をとるかはわかりませんが、狂気の入口というのは、誰にでも見えているような気がします」
春樹が想いを寄せる女性・明子については……?
「岩松さんの描く女性はすごく魅力的なんです。でも、なぜ魅力的なのか、理屈ではわからない。作品の世界観自体も理屈では語れないというか……でもそこにこそ、岩松作品の答えがある気がしています」
出演映画『南瓜とマヨネーズ』の原作マンガを読んだ時は「余白がいっぱいあって、想像を喚起させるような作品だなと、映像化されたらいいものになると思いました」。
互いに愛情を抱きながらも、鬱屈した日々の中ですれ違っていくせいいちと恋人のツチダ。留まり続けるツチダとは対照的に、せいいちは、もがきながらも自分の足で一歩を踏み出す。抱えていた暗く重い何かがせいいちの中から抜けたことが、太賀さんの絶妙な表情で表現されるが、せいいちはなぜそこに至ることができたのだろう。
「二人で暮らしていた部屋を離れた時に、せいいちはそれまでツチダと過ごした時間のことを振り返ったと思うんです。その時に『幸せだったな』って思えたんじゃないでしょうか。原作にも脚本にも書かれていないので正しいかどうかはわからないですが……そういうことのような気がします」
多くのクリエイターからの出演オファーが止まらない太賀さんだが、自らラブコールを送りたい相手はいるのだろうか。
「ここで言うのは嫌らしいですかね……」と迷いながら挙げたのは、橋口亮輔監督。
「高校生の時に『ぐるりのこと。』を観てすごく感動して、いつかお仕事できたらと思ってきました。今でも余韻が残るぐらい、言葉が深いところに染みてくる作品でした」
(取材・文:門倉紫麻 写真:江森康之)
映画『南瓜とマヨネーズ』
監督・脚本:冨永昌敬 原作:魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』 出演:臼田あさ美、太賀、オダギリジョー 配給:S・D・P 11月11日(土)より全国ロードショー
●同棲するミュージシャンの恋人・せいいちを支えるためにキャバクラで働くツチダ。お金欲しさにそこで知り合った男と愛人契約を結ぶが……。複雑な思いのまま働き出すせいいち。昔の恋人と再会したツチダ。穏やかな日常が変わっていく。やくしまるえつこ作の劇中歌にも注目を。
(c)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
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