悩み相談にのったのに嫌われる。相談ベタを脱するにはメンタル・レスキューのプロに学べ!
公開日:2017/11/13
近年、社内コミュニケーションの活性をめざして、職場内で定期的にマンツーマンの面談やミーティングの機会を設ける企業が増えている。面談ついでに部下や後輩から悩み相談をもちかけられる場合もあるだろう。しかし、よかれと思ってアドバイスしたものの、ふと気づくと自分の意見を押し付けていたり、折れやすい平成部下をさらに凹ませてしまったりした経験はないだろうか。
そんな人におすすめしたいのが『相談しがいのある人になる 1時間で相手を勇気づける方法』(下園荘太/講談社)だ。著者の下園壮太氏は、元・陸上自衛隊衛生学校の心理教官であり、メンタル・レスキューのシニアインストラクター。本書では、陸上自衛隊を中心とする数々の現場経験から得た、実践的なコツや考え方を紹介。相手に説教したり落ち込ませたりしてしまう「相談しがいのない人たち」の事例から始まり、失敗する原因や効果的なメッセージ、相談者の味方になるための実践的なステップまで、わかりやすい言葉で解説されている。
まず著者は、悩み相談をもちかけてくる人は3タイプにわかれると分析している。ひとつは「普通の悩み」の相談者。悩んではいるものの、比較的冷静な判断ができる状態にあるため、アイデアやヒントがあれば自分なりに解決策を考えられる。
ところが、それでは解決できないのが残りのタイプだ。2つめは「悩みモード」に入った相談者。考え方が少し偏っていたり、柔軟性がなくなったりしている。3つめは「うつ状態」にある相談者。悩みモードに疲労感や不眠などの身体的な苦しみが重なった状態だ。後者の2タイプは「悩みの深い相談者」として、より慎重な対応が必要になってくる。そうした際の大きなヒントになるのが、著者が考える“情報化社会において、人が誰かにあえて相談しようとするときの心理”のくだりだ。
誰かに真剣に相談しようとするときは、すでにかなり悩んでいる、悩みの深い相談者であることが多いのです。長い間悩んだ結果の「ちょっと相談にのってもらえますか」という依頼であることが多い。ですから、あなたが誰かから改まって「相談」を持ちかけられたら(一見そうは見えなくても)、悩みはかなり深いと思って対応したほうが良いのです。
「悩みの深い相談者」に最初に必要なのはアドバイスではなく、感情を落ち着かせること。そのためにはまず、「聞いてほしい」という相手の欲求を満たすことにつとめる。決して“頼りがいのあるところを見せたい”とか“すぐに解決策を出してほっとさせたい”などと、自分本位なことを思ってはいけない。人が自分の話を聞いてほしい背景には「根源的な欲求」がからんでおり、著者は「相談したい人の心のメカニズム」をこのように解説している。
人はピンチにあるとき、自分の苦しさを表現したいという「表現欲求」をもつ
さらに、つらい状況をわかってほしいという「共感確認欲求」も抱えている
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2つの欲求は「人に聞いてもらう」ことで満たされる=まずはただ黙って耳を傾ける
自分が危機的状況にあることが相手にきちんと伝わった。それだけで、相談者は大きな安堵感に包まれる。そして相談者の味方になるためには、最初の30分間は自分の意見はできるだけはさまずに、相手の話にじっと耳を傾けること。徹底して聞くことで相談者の味方になることができ、勇気づけることもできるという。
だが、人が人の話を聞くことは、簡単なようでいて実際には難しい。どんなに注意を払っていても、テクニックに頼ることで大切なポイントを見失ってしまう場合もある。相手のためを思い真心で接したとしても、それが必ずしも今悩みの中にある相談者に受け止めてもらえるわけではない。著者はあとがきで、こんな警鐘を鳴らしている。
少しのコツを知っただけで、すべての相談にうまく対処できるものではありません。むしろ、コツを意識するあまり、あなたの対応があまりにも不自然になることさえあるのです。
本書を利用するときも、あなたの自然さを失わない程度に、バランス良く取り込んでみてください。
悩みをもちかけられたら、まずは自分自身の考えや感想はそっと横に置き、相手の話に徹底的に寄り添い、耳を傾けること。隣に座って、同じ景色を見ようと試みること。本書1冊を丁寧に読み通すことで、相談しがいのある人に近づくさまざまな方法やヒントが見えてくる。人を上手に勇気づけられるような方法を知ることは、人生において、日常生活のさまざまなシーンで、必ずあなたの役に立つはずだ。
文=タニハタ マユミ