「過労死なんてしませんよ、もう死んでいますから」。働くモンスターが現代社会に一石を投じる社会派コメディ『社畜フランケン』
公開日:2017/11/23
会社の家畜、すなわち社畜。会社に飼い馴らされて、心が麻痺して、下手すれば過労死に至る病ともいえるが、相手が死体を接ぎあわせて生まれた人造人間ならばどうだ? 睡眠はいらないし、体力は無尽蔵。趣味もないから、暇な時間を与えられるくらいなら24時間働いていたほうがマシ。そんなフランケン=シュタイン氏が主人公のマンガ『社畜フランケン』(鳥屋/講談社)は、身を粉にして働く行為を否定することへのアンチテーゼと、でもやっぱり社畜はフランケンシュタインも同然ってことなんじゃ……という皮肉の隙間を絶妙についた、シュールなお仕事コメディである。
「過労死なんてしませんよ、もう死んでいますから」が決めゼリフのフランケンは、残業大好き・雑用大好き・仕事は率先して引き受けるという、まさに社畜の鑑。己を社畜と蔑みながら働くことを決してやめようとしない人間たちが理解できない。愚痴をこぼしながら働く自分を誇りに思う。その矛盾はどこから生まれるのか? 働くというのは、この国の人間にとってどんな意味をもたらしているのか。
理解できないフランケンに、医者はいう。
〈この国で生まれた者に教育される「美しく強い人間像」は、「責任感」という重圧のもとに苦しきを背負い自らの限界を超えることを美徳とする〉
〈だから容易く壊れてしまう〉
働かずして人は生きてはいけないけれど、働きすぎてみずから命を縮めてしまう、弱くて脆い人間たち。そんな人間に、ひたすら働くことで近づこうとするフランケン。そのズレがおもしろおかしく発生する会社生活を通じて、両者の対比を描いているところに本作の魅力はある。
身を粉にして働くこと、それ自体は決して悪ではない。営業成績トップを誇る茂手(通称モテ作)もまた、人間ではあるが、卓越したコミュニケーションスキルと目立つ風貌など己のスキルを仕事に費やす会社人間。彼が仕事に情熱をそそぐのはひとえに「自分の価値(ブランド)を高めたいから」。いい仕事が自分にまわってくるのが「面白いから」。だから、仕事の効率をあげるためには8時間睡眠をとるし、女の子とだって遊ぶ。面白くなきゃやってらんねーだろ、と笑いかける彼の言葉はフランケンだけでなく読者にも突き刺さる。そう、生きるために働くのならば、本来働くことは生きていくためのモチベーションに繋がっていくはずなのだと。
対してフランケンが働く理由は、「“働いて”さえいれば『人間』としては扱われずとも『サラリーマン』としてなら扱ってもらえる」から。モテ作や、彼に恋する変わり者の元マドンナ・ゾン子、ツンデレ部長という仲間を手に入れたように、働くことは人と、社会との繋がりを生む。それはあきらかに人間ではない見た目をそなえた彼にとっての救いだ。もちろんその思想は、働くことでしか居場所を見いだせない人たちを追い詰めてしまう危うさも孕んでいるが、著者があとがきで語るように、どんな素敵な他人も苦しみのすべては救えないし、「あなたの気持ちすべてを知っている唯一の理解者はあなただけ」。フランケンを通じて読者もまた己にとっての働く意味を考えさせられる問題提起の一冊でもあるのだ。
出生の秘密や裏で彼を見守る“親”など、物語には謎ももりだくさん。ITAN WEBで現在も活躍(連載)を続ける働くモンスターの行く末を、今後も見守っていきたい。
文=立花もも
(C)鳥屋/講談社