「墓多」「Fuckoka」「亡巣」……“修羅国”を生き抜く社畜マンガが色々と攻めすぎてる件『社畜! 修羅コーサク』
更新日:2017/12/11
「修羅国(しゅらのくに)」と聞くと世代的にどうしても『北斗の拳』を思い出してしまうが、ネットの世界ではとある都道府県を指すらしい。『ヤングマガジンサード』連載の『社畜! 修羅コーサク』(江戸パイン/講談社)は、ま
さに「修羅国」こと福岡県、もといFuckoka(ファックオカ)を舞台にしたギャグマンガである。
物語は武辣苦(ぶらっく)商事につとめる主人公の図画(ずが)コーサクが東京から左遷され、Fuckokaの中心地・墓多(はかた)を訪れるシーンから幕を開ける。出迎える上司に挨拶がわりと「東京銘菓」の菓子折りを渡したものの、中身が福岡生まれの「ひよ子」だとわかって相手が激高、いきなり東京vs.福岡のひよ子論争に巻き込まれてしまう。しかし、そんな逆風でも図画は動じない。美しい45°のお辞儀で華麗に回避して……。そう、図画は企業の一兵卒として朝から晩まで仕事に明け暮れてきた、一流の社畜リーマンなのだ。
■このイカレた墓多へようこそ(TOUGH BOY風)
読者はまず、墓多の恐るべき生態に目を疑うに違いない。
街の入り口には「飢ェル噛ム(ウェルカム)」のボードが掲げられ、街中の木には果実ではなく手りゅう弾が生っている。雨が降れば有明海から飛んで来たワラスボが襲いかかってくるし、有名な歓楽街の亡巣(中洲)は亡者たちの巣窟だ。墓多の住民はラーメンにうろん(うどん)と麺が命のため、白い粉(小麦粉)がないと生きていけない。とんだ無法地帯である。
一方、土地が土地なら登場人物も尋常ではない。
最初に図画を出迎えた墓多死社(支社)の男はモヒカンヘアーの世紀末風ファッションだし、部署内で恐れられているお局は真正のゴリラだ。他にも取引先の社長がリモータンというサングラスがトレードマークの名物司会者だったり、死社長(支社長)がどう見ても3年B組のあの人だったりと、地元出身の有名人っぽいキャラクターがチラホラ。図画に色々と教えてくれる同じ課のイケメン先輩として、ファク山はさまるというキャラクターまでお目見えしている。もっともファク山の元ネタは長崎出身だ。
■ギリギリを攻めて笑いに変える
とにかくツッコミが追い付かないマンガだが、ベースにあるのは「社畜」と「博多」あるあるである。
日本の労働問題が深刻化するなか、社畜をギャグに変えるのは何かとハードルが高い。現在進行形で奮闘中の人にとって中途半端な自虐ギャグは笑うに笑えず、気が重いだけである。しかし本作は、博多ではなくFuckokaと荒唐無稽な舞台に置き換えることで、フィクションとして昇華させている。一方で、魑魅魍魎がはびこるFuckokaを生き抜くために、図画のスーパー社畜さは欠かせないスキルに。それぞれが上手く共存している。
残るは「博多民から見て(墓多って)どーなの?」問題であるが、そこは第1巻の帯にも書かれた弘兼憲史氏のコメントが解決の糸口になるだろう。本家「島耕作」を盛大にパロディされても「私は許した。博多の皆さんも許してやってほしい」とまで書かれたら、寛容な心で黙認せざるを得ない。
『社畜! 修羅コーサク』は現在、『週刊ヤングマガジン』へとリニューアル移籍して新連載準備中だ。まだまだ続きそうな図画コーサクの墓多ライフを心待ちにしたい。
文=小松良介
(C)江戸パイン/講談社