リアル『聖☆おにいさん』! 天台宗の僧侶とクリスチャンの結婚生活

恋愛・結婚

公開日:2017/11/29

『聖 尼さん』(露の団姫/春秋社)

 立川に住むイエスとブッダの奇妙な同居生活を描いたマンガ『聖☆おにいさん』。宗教を題材にするというタブーを打ち破り、二人の風習(?)の違いに思わず吹き出してしまう人気作品だが、なんと、このマンガの世界のリアル版ともいえる本が登場した。落語家の露の団姫(つゆのまるこ)さんによる『聖 尼さん』(露の団姫/春秋社)は、旦那さんである豊来家大治朗(ほうらいやだいじろう)さんとの結婚生活をユーモラスに描いた一冊だ。

 この本のどこがリアル『聖☆おにいさん』なのかといえば、団姫さんは仏教徒であり、大治朗さんはクリスチャンだから。しかも「なんとなく家系的に…」というのではなく、どちらも信仰には大真面目。大治朗さんは大人になって出会ったキリスト教に感動し洗礼を受け、対する団姫さんは「落語で仏教を広めよう」と意気込む天台宗の僧侶なのだ。

 お互いに一目惚れし、導かれるように結婚を約束した二人だが、もちろん結婚を決めてもお互いに信じる宗教はそのまま。「“宗教が違う”ということは、“親が違う”ということと同じ」であり、「結婚したらお互いの親を大事にするのと同じように、お互いの神様とお互いの仏様を大事にしたらいい」と共に納得したからだ。考えてみれば「結婚は家同士のもの」と当たり前のようにパートナーの宗教にあわせることこそおかしなもので、「人間の心って、信仰心って、そんな簡単なものではありません」という団姫さんの言葉に納得。

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 そんな二人は、食べていいものいけないもの、お酒とのつき合い方、クリスマスの過ごし方といった日常のことから、お墓はどうするのか、子どもはどうするのかという人生の大事まで、お互いの信仰を大切にするからこそちゃんと考える。お互いを尊重し合い、考え方に相違があっても、話し合って妥協点を見つけていくのだ。

 とはいえ、そんな二人にも離婚の危機が訪れたことがある。実は大治朗さんはADHDで、トラブル続きの毎日に団姫さんがいっぱいいっぱいになってしまったのだ。何も知らない世間に「やはり異教徒同士は無理だった」と言われるのも信条に反すると悩んだ団姫さんは、「人を変えることは難しい。まずは自分が変われ」という仏様の教えで改心。それまで人には話さなかった大治朗さんの社会性のなさを「今日はこんなボケをかましてきました」とあえてネタにし、彼の「生きやすい」環境づくりに努めるようになった。結果、いまでは夫婦で舞台にのぼり、子育て講演もするというお二人。ますます熱心な信仰生活を送る日々だ。

 いまの日本人は、「宗教」にいまひとつリアリティを持てない人も多いもの。団姫さんと大治朗さんは、そんな私たちに信仰に生きる人の日常を「笑い」に変換しながら、ラフにみせてくれる。実際、彼らが生活の中で実感する仏様や神様の教えには説得力があるし、彼らのゆるぎない「強さ」のようなもの(圧倒的に信じるものがあるからだろうか?)も、なんだかうらやましくも思える。

 この世にはさまざまな人がいる。人種に宗教に発達障害…違いがあって当たり前。だったら理解し合って共存していけばいい。つい視野狭窄になってしまいがちな私たちに、そんなシンプルで大事なことをあらためて実感させてくれる一冊でもある。

文=荒井理恵