がんで余命ゼロと言われてから14年生きたシェフは何を食べていたのか
更新日:2017/12/25
人はいずれ死ぬ。そんなことは当然だとわかっていても、やはり元気なときは現実味がない。突然自分が病で余命宣告をされたら、どんな感情になるのだろう。想像がつかない。
フレンチシェフ神尾哲男氏は、突然我慢できない腰の痛みで病院に搬送され、そこでステージⅣの末期がんであることが伝えられた。それまでの暴飲暴食やタバコ、酒の習慣から、彼は意外にもすんなりとその事実を受け止める。
すごいのは、そこで医者に「生きているのが信じられない状態」と驚かれながらも14年生き続けたことである。神尾氏は、抗がん剤に頼らず、自身のシェフとしての知見を生かし、抜本的な食事改革を行った。無念にも今年の春に亡くなってしまったが、『がんで余命ゼロと言われた私の死なない食事』(神尾哲男/幻冬舎)は、そんな彼の試行錯誤の上に行き着いた、健康的な食事の記録である。
神尾氏は、自身の体を実験台に、様々な食事を試しながら体の反応をみた。それまではフレンチ料理のシェフであったため、日本料理を食べる習慣が一切なかったが、「がん患者が少なかった昔の日本料理に鍵があるのでは」と、かつての食事内容を研究するようになる。
いわゆる体に良い食べ物というのは、いたるところで様々な立場の専門家が、まさに様々な角度から提唱している。たまに、何を信じればいいのかわからなくなる。しかし本書に書かれていることは、実に素朴な内容である。バランスよく色々な栄養を摂ること、旬のものを食べるようにすること、極力食品添加物は摂らないようにすること……。当然といえば当然だが、意外と無意識のうちに面倒臭がってサボりがちなものばかりだ。玄米を食べながらも、きちんと動物性たんぱく質も摂る。極論を言わないところに信頼性を感じられる。
また、神尾氏の提唱する食事法のうち、一番大切なのは「調味料」である。多少値は張っても、質のいい本物の調味料を買うこと。良質なものは、素材の深い旨みを引き立てるだけでなく、天然の健康成分がたっぷりと入っているのだそう。しかし、素人にはなかなか見極めが難しい。そこで神尾氏の具体的な「本物の選別法」が参考になる。塩や醤油、味噌、みりん、砂糖など、日常的に使う調味料について選ぶときの基準からオススメの種類まで詳細に書いてあるのだ。これなら今日にでも買い替えられる。
「自家製アーモンド乳」や「水キムチ」、「美味しい黒豆の煮方」など、シェフならではのオリジナルレシピがあるのも嬉しい。実際にがんとともに生きながら、奇跡の状態を保ち続けている神尾氏の食事内容は、驚くほどにシンプルで、それでいてオリジナルだ。「彼が今生き続けている」という事実がまたこの書籍の説得力を強くさせている。
食事内容に加えて、神尾氏の続けている生活習慣なども惜しみなく全て公開されている。普段不摂生が気になっている人などは、できるところから参考にしてみるのも良いだろう。
何か特別なことをしたり、神経質になったりする必要はない。ただ、自らの体を作る「食べること」を見直し、そして健康的な方法に変えるだけである。この書籍は、がん患者の方々はもちろん、そういった病にかかる前の人たちにとっても十分に役に立つ内容だ。少しでも長く健康な体で生き続けるために、食事内容を一度見返すきっかけとして最適の書籍である。
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