なぜ赤字の商品を売り続ける? 「数字に弱い人」も他人の年収やセールの仕組みがわかる「計数感覚」とは?

ビジネス

公開日:2017/11/29

『数字オンチがみるみるなおる! 計数感覚ドリル』(千賀秀信/朝日新聞出版)

 従業員の数だけで、その会社の売り上げをズバリ当ててしまう。そんなデキるビジネスパーソンになる方法をご存じだろうか。それは“計数感覚”を鍛えることだ。

 計数とは、売上原価・営業利益・当期純利益といった様々な会社の数値である。

 決算書の読み方を指南する情報は多い。けれども「計数と経営活動との関係をちゃんと理解させてくれるような本は、ほとんどありません」と中小企業診断士であり、計数感覚・養成コンサルタントの千賀秀信氏は言う。経営感覚を養うための数字の読み方を本にまとめた。『数字オンチがみるみるなおる! 計数感覚ドリル』(千賀秀信/朝日新聞出版)は、決算書などの数値と利益のつながりをコンパクトに学べる便利な一冊だ。

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 同書はドリル形式になっており、頭を使いながら計数感覚を養える。ではここで一問。

■赤字の商品はすぐ販売停止?

問題文
 下の表は、3つの商品の販売データです。
 A商品とB商品が赤字で、販売を中止すべきか検討しています。
 どう判断すればよいか答えなさい。

※ただし、C商品の販売増には限界があるため、現状を維持します。
  商品ごとの販売費は適正に把握されていることとします。
  また販売中止でも販売員の解雇はしません。倉庫代はA、B、C商品共通の倉庫代とします。

 営業利益が赤字だからA商品もB商品も販売中止にする? 経営とはそんな簡単な話ではない。この問題を考えるには、販売費を2つに分けると分かりやすい。

 まず1つが、商品の販売を中止した場合に発生しなくなる「節約可能費」。そしてもう1つは、販売を中止しても発生を回避することのできない「節約不能費」である。

 販売することで発生するのが「販売促進費」「発送配達費」「消耗品費」である。一方、「販売員給与」「商品倉庫代」は販売中止にしても“節約できない”費用である。

 A商品の節約不能費は、「販売員給与」「商品倉庫代」で合計500万円。B商品の場合は800万円。

 A商品の販売を中止すると、売上総利益と「節約可能費」はゼロとなる。しかし「節約不能費」はあいかわらず500万円残る。A商品を販売し続けた場合の赤字(営業損失)は600万円だ。販売停止したとしても発生する節約不可能費500万円と比較すると、赤字額は100万円減る。

 一方、B商品を中止した場合、節約不能費が800万円も発生している。販売し続けた場合の営業損失650万円と比べると、150万円も赤字が増えることになる。

■数字オンチこそ読み方を学ぶべき

 このように、赤字だからといって安易に販売を中止すると、さらに赤字を上乗せする場合もある。

 同じことは企業そのものにも当てはまる。赤字続きなのになぜか倒産しない会社。これも会社を倒産させることで回避できない節約不可能額が損失の額より大きいために会社を存続させた方がいい、という判断がなされているのだ。

 計数に詳しくなると、このような世間のちょっとした疑問にも答えが見えてくる。

 同書にはこのほかにも、「なぜいつも『在庫を減らせ』と言われるのか?」「ふと立ち寄った居酒屋。そのオーナーの年収を推測する方法とは?」「利益が出ているのに、給与がアップしない理由」など、日々の仕事や暮らしに直結する数字の話がいくつも紹介されている。

「自分は数字に弱い」、そう自覚している人にも分かりやすいテーマと解説が用意されている。この本を読むと、日常的に接する「あのお店」や「あの企業」の裏の顔が見えてくるはずだ。数字オンチが知らなかった数字の面白い世界が見えてくるだろう。

 ちなみに、「従業員の数だけで、その会社の売上をズバリと当てる方法」については、本書所収の「計数感覚コラム(営業で勝つための方法--「御社の年商はいくらですか?)」をぜひ参照してほしい。

文=武藤徉子