LiSAが紡いだ、10の「物語」――LiSAアニメタイアップ全楽曲レビュー(前編)
更新日:2017/12/2
2011年にデビューして以来、その歌で数々のアニメ作品に力を与えてきたLiSAにとって、最新シングルの“ASH”は10曲目のタイアップ楽曲となる。携わるすべての作品と真摯に向き合い、自らのメッセージも歌に託してきたLiSAの、アニメタイアップ全楽曲を振り返る。
1. Crow Song (Yui ver.)
Girls Dead Monster『Keep The Beats!』収録
2010年6月30日リリース
作詞・作曲:麻枝准、編曲:光収容
LiSAとアニメ音楽が出会ったのは、2010年に放送されたTVアニメ『Angel Beats!』の劇中バンド、Girls Dead Monster(以下ガルデモ)の2代目ボーカル・ユイ役の歌い手を担当してから。岐阜から上京し、音楽活動を続けていたLiSAにとってこの作品のオファーは大きなチャンスであり、ガルデモのライブでも最高のパフォーマンスを披露したことが、現在につながっている。ここで取り上げた“Crow Song”は、同業のミュージシャンにも「めちゃくちゃな構成の楽曲だけど、ほんとにすごい」と言わしめる、作曲者・麻枝准の特徴=聴き手を楽しませるための仕掛けが1秒1秒に至るまで施された極上のポップソングで、LiSAのライブにおいても、客席のギアを一段上げる役割を長らく担っていた。活動を重ねるにつれて、ライブのセットリストは「ガルデモに頼らない構成」へとシフトしていくが、それが決して「卒業」とか「封印」を意味しないところがLiSAらしさ2015年1月、2度目の日本武道館公演の終盤にアコースティック・バージョンで披露され、客席全体を感動に包んだガルデモの“Little Braver”などは好例。すべての曲に愛情を注ぎ、その記憶を大切にしながら前に進んでいく、LiSA的ライブ名場面のひとつだ。
2.oath sign
TVアニメ『Fate/Zero』1stシーズンオープニングテーマ
2011年11月23日リリース
作詞・作曲:渡辺翔、編曲:とく
アーティスト・LiSAとしての原点である1stシングル。作品世界と絶妙に融合した楽曲に乗せて、ぶっちぎりの歌唱力を見せつけ、デビュー曲にしてセールス的にも破格の成功を収めた。一方、“ASH”に関するインタビューで本人も語っている通り、“oath sign”は自分のものにするまでに長い時間を必要とした楽曲でもある。ガルデモしかり、LiSAの音楽的なルーツはバンドサウンドのそれに近く、壮大に展開する楽曲をエモーショナルに歌い上げる曲調の“oath sign”は、困難を伴う挑戦だった。そこでLiSAが選択したアプローチは、聖杯をめぐって英霊たちが戦いを繰り広げる『Fate』から、「誰もが欲しいものを探して頑張っている」というシンプルかつ普遍的なメッセージを抽出すること。このエピソードはとても象徴的だが、アニメ作品と対峙するLiSAのスタンスは常に聴き手の目線に近く、何よりものすごく真摯である。アニメの楽曲をLiSAとして届ける意味は何か、どのように届けたら作品のファンや自身のライブに集まるオーディエンスが喜んでくれるのか――この繰り返しが、LiSAのアーティストとしての進化を促し、さまざまな局面で信頼関係を構築する礎となっていく。
3.crossing field
TVアニメ『ソードアート・オンライン』≪アインクラッド≫編 オープニングテーマ
2012年8月8日リリース
作詞・作曲:渡辺翔、編曲:とく
リリースから5年を経た今もなお、ライブにおける主力として君臨し続けている、LiSA史上屈指の名曲。海外でも認知度が高く、国内セールスも10万枚を突破しており、アニソンシンガーとしてのLiSAを広く知らしめた。『Catch the Moment』のリリース当時、LiSAはこの曲と『ソードアート・オンライン』について、「やっぱり〝crossing field〟を外してライブはできなかったし、出発地点は一緒だったけど、そこから別々の道を歩んで、それぞれの活動を見ながら、ずっと気にして、また出会う。大事なときに必ずそばにいてくれる、親友みたいな感じ」と語っており、自身にとってもファンにとっても、思い入れの深い楽曲。また、“crossing field”は、楽曲をライブにおいてオーディエンスとともに育てていく、というLiSAの哲学が最も明快に発露された曲でもある。発表当初は、どちらかというとアニソン的カタルシスが控えめな楽曲だったが、オーディエンスが能動的に参加するパートが次第に重なっていき、爆発力を増した(ファンにはお馴染み、ギターCO-K氏の1,2カウントもまさにそれ)。ファンとともに育んでいった楽曲は数多く存在するが、中でも“crossing field”の成長度合いはケタ違いのレベルである。
4. träumerei
TVアニメ『幻影ヲ駆ケル太陽』オープニングテーマ
2013年8月7日リリース
作詞・作曲:HIDEO NEKOTA、編曲:akkin
4枚目のシングルにして、初めて原作がないオリジナルアニメ作品の主題歌を担当したのが、この“träumerei”。重心が低く力強いロックナンバーであり、本人が「わたしは今までアニメに助けられてきたから、次は自分がアニメに力を与えられる人になりたいと思った」と語っているように、「自分の歌で、音楽で、アニメの世界を表現してみせる」という強い決意や気概、使命感が伝わってくる。現在のLiSAは、自らのメッセージを届ける楽曲とアニメの作品世界を映し出す楽曲、いずれのフィールドにおいても高い表現力を発揮する稀有なアーティストだが、“träumerei”はひとつの大きなきっかけとなっている。また、ひとつ前のシングル“best day, best way”(2013年4月リリース)で、成果を手にした経験も大きい。ステージでは熱く激しいライブを繰り広げ、オーディエンスを楽しませてくれるLiSAだが、そのパーソナリティには内省的で、ステージに立つ姿とは違う一面も持ち合わせている。だからこそ彼女は、受け取ってくれる誰かのために常に全力でいられるわけだが、作品の力を借りず自分そのものを打ち出した“ベスベス”の成功体験が、LiSAという人格に自信を与えたことも大きく作用している。
5. Rising Hope
TVアニメ『魔法科高校の劣等生』オープニングテーマ
2014年5月7日リリース
作詞:LiSA・田淵智也、作曲:田淵智也、編曲:堀江晶太
LiSAのライブ終盤、最も客席をブチ上げる最強のキラーチューン。LiSAのキメとタイトルコール、そしてピアノが走るイントロがかかるだけで、狂喜の光景が広がる。アニソンイベントだろうが、ロックフェスだろうが、関係ない。すべての聴き手を等しく昂揚させる「魔法」がかかっている。この曲が生まれた背景には、自身の体調不良により100%のパフォーマンスが発揮できず悔しい思いをした、2014年1月3日、自身初の日本武道館公演がある。当日、LiSAの不調は誰の目にも明らかで、本人も「何回もマイクを置きたいと思ったし、何回も『ごめんなさい』って思ってたんです。この場所まで連れてきてくれた人たち、楽しみにして来てくれた人たちを、自分の不甲斐なさで心配させてしまっていることが申し訳なくて」と振り返っていたが、集まった観客全員がLiSAを盛り立てることで、武道館はひとつになった。その日に感じた申し訳ない気持ちや悔しさを乗り越え、「みんなのためにわたしは強くなりたい」という誓いを歌詞に刻んだのが、この“Rising Hope”である。書かれた瞬間から「LiSAと聴き手の物語」が全編に詰まったこの曲は、ライブの場で歌われるごとに物語が共有され、楽曲としての強度を増している。作品世界を伝えるアニソンとしての「正しさ」と、LiSAの力強い「決意」が同時に託された、会心の1曲。
6. シルシ
TVアニメ『ソードアート・オンラインⅡ』《マザーズ・ロザリオ》編 エンディングテーマ
2014年12月10日リリース
作詞:LiSA、作曲:カヨコ、編曲:堀江晶太、ストリングスアレンジ:岡村美央
アニメタイアップ楽曲としては初めてLiSAが単独名義で作詞にクレジットされ、2012年から『ソードアート・オンライン』に関わり続けてきたLiSA自身が「『SAO』の中で一番身近に感じた」と公言する、《マザーズ・ロザリオ》編の主題歌。振り絞るような歌声と、ドラマティックなストリングスを配したサウンドが聴く者の心に突き刺さる名バラードだが、LiSAが手掛けた歌詞が特に秀逸。≪じっと見つめた キミの瞳に映ったボクが生きたシルシ 何度も途切れそうな鼓動 強く強く鳴らした 今日を越えてみたいんだ≫≪いくつ願い叶えてもキミと過ごしたい新しい明日をすぐに 次々にボクは きっとまた願ってしまうから≫などのフレーズでは、残り少ない命を懸命に生きた《マザーズ・ロザリオ》編のヒロイン・ユウキの心情が描写されていて、同時に、同年1月の武道館公演以降、その存在をより強く認識するようになったオーディエンスへ捧ぐ、LiSA自身の深い感謝の想いも託されている。『ソードアート・オンラインⅡ』《キャリバー》編のエンディングテーマとなったM-2の“No More Time Machine”とあわせて、アニメとの絆と聴き手との絆、ふたつの強い絆を感じさせるシングルだ。
文=清水大輔