糖質制限ダイエットと脳の関係とは? 「思考系」と「理解系」が弱い人は要注意! 医学博士に聞いてみた。

健康

更新日:2017/12/8

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 昨今の過剰なブームの影響で「糖質制限ダイエット」が習慣化している人も少なくない。しかし、糖質制限のメリット・デメリットを正しく理解せずに、ただ盲信している人もいるのではないだろうか? そこで、糖質制限をはじめとしたダイエットブームにはまりやすい人の脳の特徴と、糖質制限が脳におよぼす影響について、「悩みの原因は心ではなく脳にある」と提唱している脳の学校代表で医学博士の加藤俊徳さんに話を聞いた。

――糖質制限は脳にどんな影響をおよぼすのでしょうか。

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加藤俊徳さん(以下、加藤) 糖質は人間が活動するために欠かせないエネルギー源で、特に脳の神経活動はブドウ糖をエネルギー源としています。ですから糖質を極端に制限してブドウ糖が不足すると、脳の働きが低下して集中力が落ちますし、やる気が起こらなくなります。糖質制限をしている人の多くは、そのことに気づいていないのではないかという懸念があります。反対に、糖質を過剰摂取すると、脳がその状態に依存して正常な機能を損なう可能性があるので、適度な糖質摂取が大事なんですね。

 医師としてまず伝えたいのは、自分で栄養状態をコントロールするために、体重の増減よりも栄養のバランスに気をつかったほうがいいということです。脳も身体も、いろいろな栄養源の供給によって機能していますから、制限するより足りないものが出てくるほうが危険なんですね。自分の身体の声に耳を傾けてほしいです。そのために日頃から意識するべきことは、空腹感と満腹感に敏感になって、身体の不調がないか意識しながら食生活のバランスをとることです。感情が不安定でイライラしやすい人は、栄養不足や栄養バランスの偏りを疑ったほうがいいでしょう。

 朝と昼しっかり食べる生活リズムにすると、夜はそれほど空腹を感じないはずです。昼と夜のサイクルが狂うだけでも人は太りますから、その場合は早寝早起きして、食事する時間を見直すだけでも自然に2キロは痩せるでしょう。脳のサイクルを安定化することは、健康維持のためにもダイエットするうえでもとても大事なことですから、糖質制限する前にまずはやってほしいですね。

――外食産業のメニューにも糖質制限のものが増えて、「糖質は制限するもの」と思い込んでいる人も多いです。糖質制限を盲信している状態も脳と関係がありそうです。

加藤 糖質制限でも何でも、外部からの影響によってそれが正しいと思い込み、真似している状態は自己コントロールできずに洗脳にかかっているのと同じです。本来は、自分の体の不調を感じて糖質制限が必要だと判断して、自分から脳に生活行動を変える命令を送らなければいけないんですね。何かを信じてやっている限り、思考系の脳が正常に機能しているわけではないんです。自己コントロールできてない状態と同じだと、洗脳が切れたときには反動が起こる可能性もありますから。

 脳には右脳感情と左脳感情があって、どちらの感情系も依存症に関係しているんですけど、外部情報にもとづいて「誰かの真似をすれば痩せられる」と思い込むのは右脳感情です。そのまま依存症になりやすい人は、左脳の扁桃体の周辺が弱いケースが多く、自分が外部の情報を盲信していることに気がつかずに、依存の度合いを自己評価することができません。左脳感情がうまく機能せずに、自己を客観的に評価、分析することができないのは依存症の特徴ですね。

 左脳が発達して知識や言語能力が高い人でも、左脳の思考系が未熟な人が多いです。左脳の思考系が弱い人は順序立てて物事を考えるのが苦手なんですね。「よくわからないけど効果がありそうだから、とにかくやってみよう!」といったような漠然とした理由で行動を起こしてしまいがちです。

――著書『悩まない脳の作り方』(辰巳出版)に、自分の左右の脳のクセを知るチェックリストがあります。今までのお話を聞いていると、「旅行ガイドブックを読んで、旅の計画を立てるのが好き」「将来こうなりたいというビジョンや夢がある」といった思考系タイプと、「整理整頓が得意」「自分の長所と短所をパッと3個ずつあげられる」といった理解系タイプは、糖質制限信者になりにくいのでは? と思いました。

加藤 そうですね。何でもまず納得いくまで調べて計画を立てることができる人や、糖質制限という手段のあとの目的を明確にすることができる人は思考系が強く、ブームに安易に流されません。糖質コントロールができています。糖質制限はいろいろある方法論の一部なので、それ自体が目的になっている人は、糖質制限したあとどうなりたいのか目的を明確にする必要があります。

 理解系について言うと、整理整頓できない人や、自分のことを理解していない人は、ブームに流されやすいでしょうね。逆にそういうことができる人は、それが自分に本当に必要かどうか理解したうえで取り組むことができると思います。

――糖質制限との賢いつき合い方をアドバイスするとしたら?

加藤 僕が推奨したいのは、糖質制限ではなく、むしろ糖質消費を意識する生活にシフトすることです。日中の脳の活動量を増やすことで糖を消費できますから、仕事はもちろん、運動や読書、整理整頓、人付き合いも含めて一日の活動量を幅広く増やすようにすることです。

 糖質制限のメリットをひとつだけあげると、人間は食事も生活パターンもマンネリ化しやすいので、自分の食生活を見直すきっかけとして糖質制限するのは悪いことではないと思います。単純に体重を減らすことを目的にするのではなくて、食生活のバランスを変えることで体調が良くなったり悪くなったりすると、自分の体の変化に気づくきっかけになりますから。糖質だけでなく、いろんな食べ物を期間限定で制限してみるのも脳のコントロール機能を高めるためにいいと思います。

 気をつけてほしいのは、糖質制限で健康を害する人もいるということです。肉体労働者やスポーツ選手など、普通の人よりエネルギー消費量が多い人は、むやみに糖質制限する必要はありません。自分がどんな生活スタイルで、どの程度の糖質制限が必要なのか必要じゃないのか、しっかり考えてから取り組んでください。

 女性も過剰な糖質制限には気をつけたほうがいいですよ。脂肪が減ると生理が止まりますし、女性ホルモンのバランスが崩れてエストロゲンが減ると、お肌が荒れますし、睡眠障害も起きやすくなり、鬱になる可能性も高まります。糖質制限は、男性より女性のほうがリスクが高いので、特に注意が必要です。

加藤俊徳(かとう としのり)●脳内科医。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。胎児から超高齢者まで1万人以上の人をMRI脳画像を用いて診断治療。脳番地トレーニングの提唱者。『脳の強化書』(あさ出版)など著書多数。脳の学校公式サイト http://www.nonogakko.com

取材・文=ダ・ヴィンチニュース編集部