一度でいいからセックスしたい! 36歳ベテラン処女が教えてくれた自分を変える勇気
更新日:2018/1/5
どうして私は私なんだろう? 変わりたいのに変われない。一歩を踏み出す勇気がない。人知れずそんな悩みを抱えて生きている大人たちに、ぜひ読んでみてほしい一冊がある。2005年に第4回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞した南綾子氏の新刊『知られざるわたしの日記 ベテラン処女の最後の一年』(双葉社)だ。
本作の主人公は36歳、彼氏いない歴=年齢のベテラン処女、勅使河原一子(てしがわらいちこ)。名前の由来でもある1月1日の誕生日、デリケートゾーンの毛に白いものが交じっていることを発見し絶望。1年後の37歳の誕生日までに処女喪失することを決意し、まずは自分を見つめ直そうと日記を書き始める。
一子はデブでブスで恋愛経験は限りなくゼロに近い処女だが、エロ動画鑑賞と自慰はほとんど毎日欠かすことがない。大好きな韓国人アイドルのお尻の穴をリアルに想像したり、酔っ払って寝ている上司の分身を拝もうとスボンのチャックに手を伸ばしたりする性欲モンスターだ。エロいことばかり考えているから、一人称で語られる文章のなかには「セックス」「電マ」「自慰」「アナル」とアダルトな単語のオンパレード。そのうえ、この一子という女にはとてつもない文才がある。随所にはさみこんでくる小ネタやボケに思わず吹き出しつつ、1年間にわたる記録を一気に読み尽くしてしまった。
しかし、その軽快な筆致の裏に横たわっているのは「どうしようもない自信のなさ」や「自分ではない誰かになりたいという欲求」。思わず目を背けたくなる自分の負の側面だが、処女喪失で自分を変えようと決意した一子は、腹の奥底にうずめてきたえげつない黒歴史を、もがき苦しみながらもひとつずつ清算していく。
また、家族からぞんざいな扱いを受けて育ったうえ、男に騙されてAV女優になった愛沼うぶや、幼少期のトラウマから人前に立つことができなくなり、大舞台で射精してしまったことでお笑い芸人の夢を諦めかけていた山中太といった、同じく「変わりたいけど変われない」人たちとの出会いによって、一子の人生は想像もできなかった方向へと動き出す。
仕事もプライベートも、目まぐるしく変化する状況のなかで、なんとか必死に食らいつこうとする一子の姿は、どこか滑稽で痛々しくもあるけれど、とても愛おしいものに感じられた。一子は決していいやつではないし、友だちになれるかは微妙なところだが、なぜか心の底から応援したくなる。
読後感はとにかく爽快。主人公は36歳の処女だし、下品でエロい単語が書き連ねてあるにもかかわらず、青春小説を読んだときのような感覚だ。そして、なんとなく持て余していた「自分を変えたい欲求」に火が付いて、いても立ってもいられなくなった。
はたして一子は処女喪失の目標を達成することができたのか。その真相は自分の目で確かめてほしい。ただひとつ言えるのは、自身の負の部分から目を背けずに、ちゃんと傷付いたりもがいたりしなければ自分を変えることはできない。一子が走り切った1年間はそんなことを教えてくれた気がする。
「変わりたいのに、変われない」。そんなくすぶった思いを抱えている不器用な大人たちにこそ、ぜひ読んでもらいたい作品だ。
文=近藤世菜