「脱クルマ社会」が地方活性化の切り札になるのか?
公開日:2017/12/20
騒がしい都会を離れ、地方に移住をする人が増えてきた。郊外や地方での生活を想像する時に、クルマは生活の必需品だと言えるだろう。それを真っ向から否定するのが、『クルマを捨ててこそ地方は甦る』(PHP研究所)だ。
著者の藤井聡氏は、大学院で教授を務めるほか、土木工学や行動経済学、心理学、教育学の専門家で、「まちづくり」におけるプロフェッショナル。そんな著者が、研究と考察を重ね、多様な視点から導き出した「クルマが地方を衰退させていく」という理論が本書では展開される。
著者が幅広い分野の専門家なこともあって、「クルマと人との関係」が真面目ではありながらもユニークな視点で語られていく。数字やデータできちんと理論付けされているのだが、「クルマ移動が増えると、運動量が減って肥満になる」、「クルマに乗ってばかりだと、おしゃれをしなくなる」、「クルマ社会だと、人と触れ合わず孤独になっていく」などと、気づいてはいるけれど指摘されたくない心理的なところにも切り込んでいき、クルマと人との歪んだ関係を浮き彫りにしていく。
著者にゆかりの深い京都や富山で交通インフラを整えた事例や、カーシェアリングを使うといった「クルマとの賢い付き合い方」の指南も詳しく織り込んであり、著者がクルマを手放したというエピソードも説得力がある。
そのなかでも、郊外のショッピングセンターが地方を大きく衰退させたという一節は、社会の大きな歯車の一部として生きなくてはいけない現代人には、またしても痛いところを突かれたなという気分になるのではないだろうか。
地方の人々がクルマ依存のライフスタイルを深化させていけばいくほどに、大型ショッピングセンターが繁盛し、結果、自分たちが一生懸命稼いだカネを地域外へと激しく「流出」させる
ショッピングセンターは地域外の大きな資本が経営している。そのため、そこで使ったお金は大資本に吸い取られていってしまう。地元の商店街で1万円の生鮮食料品を買った場合には約5000円が地域に還元されるが、全国チェーンの場合は地域に2000円程度しか戻ってこないのだ。
新しくできた便利なショッピングセンターを何気なく利用しているだけなのに、それが地域を衰退させる原因になっており、それを後押ししているのが、クルマに依存する社会だという。
クルマを手放すだけで、地方の問題がすべて解決するわけではないだろう。けれど、地方に住むとしてもクルマに乗る必要がないという考え方は、これまでの消費やモノ重視の生活を考え直すきっかけになる。こんな風に、いままで常識だと思っている物事も、もっと頭を柔らかくして考えてみるだけで、新しい解決への道が開かれるのかもしれない。
文=ナガソクミコ