ジャーナリストの田原総一朗氏と漫画家の小林よしのり氏がいまこそ日本人が知るべき天皇論を語る!
公開日:2018/1/2
幅広いメディアで活躍している田原総一朗氏と、漫画家で23万部突破のベストセラー『天皇論』の著者でもある小林よしのり氏が、歯に衣着せぬ言葉で「天皇と皇室のあり方」について徹底的に語りあう。そんなコンセプトの本書『日本人なら知っておきたい天皇論』(田原総一朗・小林よしのり/SBクリエイティブ)は、昨年の8月8日、天皇陛下のお言葉で始まった生前退位問題が浮上してから1年ほどで上梓されている。
「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」られた天皇陛下が、「既に80を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じています」と、ビデオ映像を通してご自身の思いを率直に語られたことで各方面に波紋が広がった。
そして先頃、日本政府は「天皇陛下が2019年4月30日に退位され、皇太子さまが翌5月1日に即位されることが正式に決まった」旨の発表を行った。世論の多くが陛下のご意向を尊重、支持し、その声を受けた政府が特例法として閣議決定し、このほど成立をみた形だ。
陛下が譲位して上皇になられると、日本の歴史上200年ぶりの大事件となる。そんな経緯や背景を踏まえて、田原氏と小林氏は、天皇論がタブーになった理由、皇室バッシングの経緯、天皇の生前退位の問題、皇室典範の改正、眞子さまのご婚約、女性・女系天皇、女性宮家問題、天皇の戦争責任論等々、天皇や皇室にまつわるさまざまなテーマについて互いの意見を述べつつ、主に田原氏が小林氏の意見を引きだす形で次々に質問をくりだしていく。
天皇陛下のビデオメッセージをどう思ったか?との田原氏の質問に対して、小林氏は次のように答えている。
わしはずいぶん前から、女性・女系天皇、女性宮家の問題についても問題提起していましたらかね。ついに陛下ご自身がここまでおっしゃらなければならないほどの状態にしてしまったのかと、申し訳ない気持ちになりました。
小林氏は保守派の論客として知られている。だがこの言葉からも推察できるように、あくまで男系天皇に固執している他の保守派の面々とはまったく立場や見解が異なっている。
本書の中で小林氏が一貫して主張しているのは、保守派とリベラル派が共に「天皇はロボットでいい」との立場からの天皇論(「天皇のロボット化」や「天皇制廃止論」まで)を論じている点について批判するとともに、・右翼も左翼も共に「本当の立憲主義の姿を知らない」と断じ、「現在の立憲君主主義を守る上でも、天皇の譲位を制度化して安定的に継承すべきだ」と述べている点だ。
ようするに、天皇陛下は皇位継承問題について国民に議論をしてほしいと望まれており、日本国民にとっても立憲主義を維持し、権威としての天皇制を存続していくことが望ましいし、そのためには皇室典範を改正して女性宮家を創設すべし、というのが小林氏の立場のようだ。田原氏も基本的に小林氏の意見に同意を示し、次のように述べている。
小泉内閣は皇室典範を改正して、女性宮家、女性・女系天皇を認めようとしましたが、僕も小泉首相に会ったとき、女性宮家、女性・女系天皇擁立は大賛成だと言った。でもそれが秋篠宮家に親王が生まれると中止になってしまった。これは当時、官房長官だった安倍晋三が中止に動いたからじゃないですか?
この後、対談の中で、「なぜ保守派が今の天皇陛下を嫌うのか」について2人の分析が続いていく。そして、差し迫っている皇統断絶の危機から、天皇の戦争責任問題をどう捉えるか、さらには天皇の歴史的意味、イギリス王室と日本の皇室との違い等々について、一般の歴史教科書やマスメディアには載らない話や二人ならではの裏話なども紹介されている。
天皇や皇室伝統をどう捉えるかは、思想信条、イデオロギー、支持政党などの違いによってもさまざまだろうが、本書を読むと、保守対リベラル、右翼対左翼のような単純な図式では捉えられないことがよくわかる。と同時に、天皇の皇位継承についても男尊女卑的な偏見や政治的な思惑を排し、リアルな視点を持つことの重要さを強く認識させてくれる。
日本文化とは決して切り離すことができない天皇という存在と皇位継承問題。これまでタブー視されてきたこの重要な課題を広く議論の俎上にのせることこそ、国民一人ひとりの義務であり、ひいては立憲主義を守るひとつの手立てにもなり得るだろう。
文=小笠原英晃