人気シリーズ『動的平衡』6年ぶりの第3弾と、流行語大賞「インスタ映え」
公開日:2017/12/27
「インスタ映え」という言葉が今年の流行語大賞になった。人気SNS・インスタグラムに載せて映えるような写真を撮影・アップロードする際に使われる言葉で、「インスタ映えする写真」というような使われ方をする。
映えるのはどのような写真か? オシャレに盛られたおいしそうな食べ物、皆が憧れるような観光地、知られざる絶景…撮影者のアカウントは十人十色の写真の数々によって飾り付けられる。
『動的平衡3 チャンスは準備された心に降り立つ』(福岡伸一/木楽舎)は、難しそうな四字熟語の外見とは相反して、「インスタ映え」という現象にもあてはめて考える事ができる。本書は複雑・多様な世の中を分子生物学者がどのような視点から見ているか知ることができる人気シリーズ第3弾で、『動的平衡2 生命は自由になれるのか』から6年ぶりの発刊となる。
分子生物学とはどのような学問なのか。ひとまず『生物と無生物のあいだ』『世界は分けてもわからない』という著者の代表作のタイトルからなんとなく思い浮かべていただくのとあわせて、それらの著書にも一貫しているこのような主張からイメージしていただくのが最適ではないかと思う。
インターネットの情報にないものは何か。それは、その答えに到達するまでの時間の経緯だ。そこには時間軸が決定的に欠けている。私は、きちんとプロセスをたどって答えに到達しないと、そこに至る喜びが味わえないのはもちろん、その答えを本当に理解したことにもならないと思う。
たとえばマラソンランナーがゴールテープを切る瞬間をうまくとらえた写真があったとすると、写真を撮る瞬間だけでなくゴールテープを切る前の42.195kmの苦労と、ゴールテープを切って一歩一歩がキロ換算されなくなった後の感情が、写真を見た人に伝わる可能性が高い。その感情は、ランナーがどのような経歴を持つ人なのかがわからなくても、マラソンというのがどのような競技であるかを知っている人であれば理解し得るものだ。
一方、「インスタ映えする写真」はどうか。冒頭にも述べた通り、自分がどこにいるのか、自分が何を食べようとしているのか、自分が誰といるのかという情報の比重が大きい。文字による補足が多少あるにしても、撮っている人がどのような人でどのような交友関係・嗜好の持ち主なのかがわからないと、誤解がうまれてしまう可能性がある。しかし、脈絡がないゆえの化学反応を期待して、日頃まず出会わないような赤の他人のインスタグラムを覗いてみるという楽しみもある。
絶え間なく動き続けている現象を見極めること。それは私たちが最も苦手とするものである。だから人間はいつも時間を止めようとする。止めてから世界を腑分けしようとする。
本書にこう書いてあるのを読むと、インスタグラムに写真をアップして共感を求めることは、バラバラになって所在が見つけにくくなった社会に流れを取り戻すことを希求するような、現代社会に生きる人間らしい行為なのかもしれないとさえも思える。皆、心の中に物語が必要なのだ。
2017年、あちこちに散らばった点を線に近づけたい方に、本書はピッタリの一冊だ。
文=神保慶政