正直「わかりみ」しかない……ブス系少女漫画に見る喪女の恋愛心理

マンガ

更新日:2018/1/22

『ブスに花束を。』(作楽ロク/KADOKAWA)

【女は誰しも心に「ブス」を飼っている】
「ブス」−−−これほどまでに女子の精神を殺しにかかる言葉がほかにあるだろうか。どんなに頭がよくても、才能があっても、センスがあっても「でもブスじゃん」という言葉は女の心に深く突き刺さる。そして、「もしかして私ってブスなんじゃ……」「美人なあの子と並んで歩くのは気が引ける」といった風に、大半の女子は心の中に「ブス」を飼っている気がするのだ。堂々と「私は美人です!」と言える女子なんて多分ほとんどいないのではなかろうか。

 さて、少女漫画のセオリーは地味で引っ込み思案、まるで野に咲く花のような主人公が、ステキな男子に見初められて両思いになる……というものである。地味で冴えない……とはいったものの、主人公の女子は、たいていの場合、そこそこ美人に描かれる。

 しかし最近は正面から「ブス」が主人公の恋愛漫画が増えている。そして、彼女達の恋模様は、心のどこかに「ブス」を飼う女子達の心をつかんで離さない。甘酸っぱいだけではなく、怖れと不安がつきものの“恋のリアル”をイヤと言うほど感じさせてくれるのだ。

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 そんなブス系恋愛漫画のひとつが『圏外プリンセス』(あいだ夏波/集英社)。主人公の目黒美人(めぐろみと)は太い眉毛と下ぶくれ気味の顔がコンプレックスの中3の女子。中1のときに好きな人をみんなの前でバラされて、からかわれたことがトラウマになり、恋に臆病になっている。中3になってもしつこくからかわれていたある日、助けてくれた男子・国松のことが好きになる。

 寡黙だがまっすぐで優しい国松に少しでも近づくため、目黒はかわいくなる努力を始めるのだが、この過程が「ブスあるある」満載。いきなりかわいくはなれないところがリアルなのである。ゲジゲジした眉のお手入れでは見よう見まねでやって盛大に失敗する。美容室ではイケメン美容師に怖じ気づき、雑誌を読むふりを続けて要望を言えむままヘルメット頭に……。初めて洋服を自分で買いに行けば、ショップ店員が怖くて逃げ回る。自分の中に押さえ込んでいた「かわいくなりたい」という気持ちを解放するときの、なみなみならぬ勇気と恥ずかしさ。そして、試行錯誤を繰り返し、少しだけかわいくなれたときの喜びが丁寧に描かれ、ページをめくりながら「うんうん、わかるわー」とうなずいてしまう。

 そしてもうひとつ、pixivコミック2017年ランキング【恋愛部門】第1位に輝いた今注目のブス系少女漫画が『ブスに花束を。』(作楽ロク/KADOKAWA)。『圏外プリンセス』がかわいくなる努力をするポジティブなブス漫画としたら、こちらはネガティブなブス漫画とも言える。

 主人公・田端花(たばたはな)はメガネとボサボサヘアがトレードマークの高1の女子。ネガティブ思考で、クラスでもぼっち状態の、自他ともに認めるモブキャラだ。ある日、唯一の楽しみである早朝の花換えついでに、浮かれて髪に花を挿しているところをクラスの人気者の男子・上野に見られてしまう。「花挿しブス」とあだ名を付けられることを怖れ、上野に口止めを頼むところから物語は始まる。

 この作品の一番の見どころは、主人公・田端の徹底的な“ブス思考”である。普通の少女漫画なら“両想いフラグ”として、主人公の照れたような表情とともに、背景に花やシャボン玉が飛びそうなところでも、田端は徹底的なマイナス思考に陥る。たとえば、花の世話を口止めされたときにも上野は「花瓶の花を換えてるのが誰か気になっていた」と話す。主人公のさりげない努力を、ステキな男子が気づいていてくれる……。もはや少女漫画の王道パターンだが、ここで田端は浮かれるどころか「すごく期待はずれな気持ちにさせてしまったのでは……」とショックを受けてしまう。さらに、クラスメイトとのボウリングで、憧れの上野と同じチームになっても、喜ぶどころかひたすら目立たないように気配を消そうとする。とにかく好きな人に迷惑をかけたりしないよう、優しくされても調子に乗らない気を使う姿が繰り返し描かれる。

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(C)作楽ロク/KADOKAWA

 しかし、臆病になってしまうのは田端だけではない。明るくて人気者に見える上野もまた、田端の遠慮からくる「好き避け」的な態度に傷ついたりもする。あるとき、ふたりの関係を冷やかされた田端は、自分と噂が立つと上野に迷惑がかかると思い「上野君だけは無理です!」と叫んでしまい、それを運悪く上野に聞かれてしまうのだ。

 傷つくことが怖い、相手に好意を悟られて「キモい」と思われたくない……そんな気持ちが先に立って、素直な態度が取れなくなることは誰しもあると思う。まして自分にとって憧れの相手ならなおのこと。だけどそれって、相手がどう感じるかまで考えてなかったのかも……と自分の心の中の独りよがりな「ブス」を反省させられたりもする。

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(C)作楽ロク/KADOKAWA

『ブスに花束を。』では、いまのところ、『圏外プリンセス』のように、花がオシャレに目覚めたり、かわいくなる努力をするような場面は見られない。ありのままの自分を愛されるというのは、少女漫画の悲願でもあるが、果たして、花がブスのまま、展開が進むのかどうかが気になるところである。最新の第3巻では、季節は夏に突入。田端と上野の関係に加え、クラスメイトたちの動きも加速して、恋愛群像劇としての新たな局面がのぞけてきた。今後の展開に目が離せない。