どうなるこの三角関係? 待ち続けて7年――難病治療の「人工冬眠」から目覚めた彼と幼なじみの同級生が…『君は春に目を醒ます』
更新日:2018/1/22
自分にとって嬉しいことが、大好きな人にとっては悲しみの一部だとしたら、それほど切ないことはない。『君は春に目を醒ます』(縞 あさと/白泉社)の主人公・絃(いと)は、7年ぶりに初恋の人をとりもどした。難病治療のため人工冬眠(コールドスリープ)していた憧れのお兄さん・千遥(ちはる)が目を醒まし、同じ高校に通う同級生となった。
眠りにつくまえは小さな妹としか見られていなかったけれど、今なら恋愛対象になるかもしれない。絃にとって再会はほのかな期待を孕んだ喜びだけど、妹みたいに大事にしてきた存在を、二度と妹としては扱えない千遥にとってはどうか。心のスタート地点がすれ違っている幼なじみのふたりが、少しずつ距離を縮めていく本作は、女子アレルギーの魔女っ子男子を描いた『魔女くんと私』に続く、著者2作目にして続刊が期待される新作だ。
小学4年生から女子高生へと成長した絃にとって、7年の変化は成長の証だ。泣き虫で、同級生の弥太郎にいじめられるたび怯えていた彼女は、眠りにつく千遥にとって大きな心残りだった。怖くても、嫌なことは嫌と言え。死なずにちゃんと戻ってくるから泣くな。そう言い残した千遥の想いに報いるために、弥太郎にも反撃するようになり、主張する強さをそなえ、彼が目を醒ましたときにがっかりされない自分を目指した。
だけど目覚めた千遥は、同い年であるはずの絃を変わらず小さな女の子のように扱う。手をつなぐのも、抱きしめるのも、全部絃が“妹”だから。告白もスルーされた絃は傷つくけれど、千遥にとって7年の「変化」は混乱をともなう感傷なのだとやがて気づく。当たり前だと思っていたものが変わっている。友達はみんな大人になり、自分の先を行き、きのうの続きのように感じられる自分の日常だけが世界に取り残されている。絃を妹だと思い続けることはおそらく、千遥にとって最後の希望だ。自分の居場所はまだここにある、つないだ手から感じられる彼女のぬくもりだけは、あのころと同じ現実なのだ、と。
一見、思わせぶりなたらし王子のように見える千遥だけれど(眠りにつくまえの絃への扱いも疑似ブラコンというには度が過ぎていないかと思わなくもない)、その天然行動の裏に潜んでいるであろう揺らぎを想像すると、絃とともに切なくなる。願わくば、絃の一途さが成就していつか“妹”を脱却してくれる日が訪れてほしいのだが、絃を見守るもう一人の幼なじみ・ツンデレ弥太郎に報われてほしいと思わされるのも本作のうまさ。絃の成長と変化を一番近くで見守り続けてきた弥太郎。同級生になった今もどこか大人で憧れの人である千遥に対し、弥太郎は彼女が等身大の自分を曝け出せる存在だ。絃に必要なのはあんがい弥太郎みたいな人なのではないのかなあ、と当て馬好きとしてはとくに思わずにいられないが、千遥もきっと今後は、お兄さんの仮面を脱いで少しずつ少年らしさを剥き出しにしていくはずで。
そうなったとき、3人の関係にどんな新しい変化が訪れるのか。1巻の続きは11月24日発売の『LaLa』から読めるそうなので、気になる人はぜひ本誌も手にとってみてほしい。
文=立花もも
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