「ナンパ教室に通う男」「プロ彼女」「偽装キラキラ女子」…人形によって愛らしくオブラートに包まれた“ワケあり”人間たちの声。『ねほりんぱほりん』スタッフたちの努力とアツい思い

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公開日:2017/12/31

『ねほりんぱほりん ニンゲンだもの』(NHK「ねほりんぱほりん」/マガジンハウス)

 NHKのEテレで放送中の『ねほりんぱほりん』が面白い。今年3月に一度終了したものの視聴者の間で根強い人気を誇り、10月にシーズン2として復活した人形劇形式のトーク番組である。

 場所は紫のライトに照らされアダルトな雰囲気を放つモクラの秘密の部屋。MCを務める「ねほりん」「ぱほりん」こと2匹のモグラと、ゲストとして呼ばれたブタの人形がゆったりとソファに鎮座する。そのかわいらしい姿とは裏腹に、ゲストブタたちの身の上話がエグイ。モグラの正体は「プロ彼女」「偽装キラキラ女子」「宝くじ1億円当せん者」「元国会議員秘書」、エトセトラ。普段はなかなかお目にかかれない“ワケあり”と呼ばれる人々だ。ブタの姿だからこそ赤裸々な裏話を語ってくれる。

 それにしても、あの人形たちの世界を表現する芸の細かさと言ったら。ねほりんは赤い丸メガネ、ぱほりんは土を掘ることはできないであろう長いネイルで“中の人”を彷彿とさせる。再現VTRや回想シーンもいちいち遊び心にあふれて楽しい。最近もっとも感動したのは「ヘリコプターペアレント」の回のワンシーンだ。ゲストの親子関係が『過保護のカホコ』(日本テレビ系)の主人公と母親に似ているとし、あのプチプチドレスを着てふんわりと座る主人公の姿がブタによって再現された。画面に出てきたのはものの数秒である。たったあれだけのために、どれだけ時間をかけてブタにぴったりのドレスを作ったのだろう。伏し目がち(に見えた)の儚げな(に見えた)ブタがあまりにもかわいくて笑った。

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 シーズン1のトークを一冊にまとめた『ねほりんぱほりん ニンゲンだもの』(NHK「ねほりんぱほりん」/マガジンハウス)では、番組を陰で支えるスタッフたち、つまり人形を作ったデザイナーや人形造形担当者、操演と呼ばれる人形遣い、衣裳や小道具の製作者、ディレクターなどなど、彼らの涙ぐましい努力もクローズアップされる。再現VTRでいえば、たった1分程度を撮るのに1時間半もの時間が割かれているとか。もちろん、そのために衣装や小道具が準備され、人形リハーサルが行われ、そもそもどこで再現VTRを流すのかが試行錯誤され…ああ大変。考えてみれば、普通だったら聞き手とゲストのトークをスタジオで収録したものを編集すれば終わるところを人形で作り直しているのだから、そのために使われた膨大な時間を思うと恐れ入る。ずいぶん手の込んだ番組であることに気づかされ、「うえ~」と変な声をあげて唸ってしまう。

 だが、これらはこの番組の一面であり本質ではないだろう。より評価すべきは少なからず偏見を持って捉えていた人々に対する見方がガラリと変わることだ。この番組ではモグラに姿を変えた「ねほりん」こと山里亮太(南海キャンディーズ)と、「ぱほりん」ことYOUが、時に温かく時に鋭くゲストに切り込む。彼らの飾らないトークでゲストの心の扉が開かれ、知りようもなかった本音が顔をのぞかせる。例えば、本書にも収録されている「ナンパ教室に通う男」は「番組史上一番ヤバいやつ」と評されているが、36歳で恋愛経験のなかった彼が自分のダメなところがわからず、それを知りたくてナンパ教室に入ったと聞き、彼も必死だったことがわかって同情してしまう。ナンパ教室に通ったことで仕事でも人間関係が改善したという彼に、「全員結婚すりゃいいかって、そんなの大間違いよ」と自分を引き合いに出して語るぱほりんに私たちは「そうだそうだ!」と賛同し、最後にはナンパ男の幸せを願ってしまうのだ。これはMC二人のトーク力とともに、「予定調和ではいかないところに人間の豊かさや面白さがある」と話すディレクターをはじめスタッフたちのゲスト一人一人に対する敬意がなすところだろう。

 ただエグイ裏話を聞きたいだけなら安っぽい雑誌でもいい。この番組および同書を見ていると、人形によって愛らしくオブラートに包まれた“ワケあり”人間たちの声に自分との共通点を見出し、「そりゃあニンゲンだもの」と思わずつぶやいてしまうのだ。彼らの考え方から学ぶことも多く、時には自分自身の生き方をも見つめ直したくなる。

 さて、同番組は年が明けてすぐ、1月1日0時10分からお正月スペシャルを予定しているそうだ。これまで出演したゲストブタたちのその後を知ることができるらしい。2018年をよりよい年にするためにも、モグラとブタのリアルトークで元旦を迎えてみてはいかがだろうか。

文=林らいみ