長生きすることは本当に幸せ? 池上彰が瀬戸内寂聴さんに聞く「老い方のレッスン」
公開日:2018/1/7
小説家であり僧侶の瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)さん(95歳)とジャーナリスト・池上彰さん(66歳)のテレビ初対談を書籍化した『95歳まで生きるのは幸せですか?(PHP新書)』(瀬戸内寂聴・池上 彰/PHP研究所)。誰もが避けることのできない「老い」や「死」。超高齢社会を迎える日本で、長生きすることは本当に幸せなのだろうか? 池上彰氏の問いに瀬戸内寂聴さんが思いを語る。
老後とは何歳から? 人によって答えは違うが、「88歳からが本当の老後」と寂聴さんは述べる。88歳以降、身体が明らかに下り坂を迎え、入院や寝たきりの日々が続き、辛いこと、痛いこと、人に迷惑をかけることが多くなり、老いを実感するようになったという。長く生きている人にしか見えない景色や心の内を、池上氏は会話の中で引きだしていく。
出家しているから死ぬのは怖くない。しかしボケるのだけが心配という寂聴さんに、「ボケるのは不思議な天の采配。一般人は死ぬことへの恐怖や不安を持つが、認知症になってしまえば不安ではなくなる」と池上氏。寂聴さんは、「周りに迷惑をかけるのでは幸せとは言えない。縁あって同じ時代に生きているすべてが幸せでないと幸せではない」と答える。
「自分さえよければいい意識がはびこっているからイジメ自殺がなくならない。自分の命も人の命も何を殺してもいけない。私が仏教の教えの中でいいなと思うのは、殺すなかれということ。それだけで十分じゃないかとも思っている。戦争が悪いのは、殺すから悪いんですよ」
「不思議な縁で生まれた命である自分は尊いもの。自分が拾ったんでもなんでもなく、いただいた命。だから大切に生きなきゃいけないとあらゆる宗教はそう言っているのでは」と寂聴さん。
「死んだらどうなる」の答えがちゃんと用意されているのは宗教だと述べる池上さん。チベット仏教では、身体は一時的な心の乗り物と考え、輪廻転生を信じている。イスラム教も復活を待ち、キリスト教も天国へ行く。日本人は仏教への関心が薄れているように見えるが、パワースポット巡りなどはソフトな形の信仰心・宗教心の現れではないか。少子・高齢化の中、アマゾンのウェブで僧侶を手配できるサービス「お坊さん便」が定着しつつあるなど、日本人のお葬式、お墓への意識が変わりつつある。新しい考えを持ったお坊さんも増え、これからは老いや死の不安の受け皿になるようなお寺も増えて行くのではないかと語る。
「老い方のレッスンといった体系的な学びの場が少ないからこそ、宗教者であって作家という伝えるプロである瀬戸内寂聴さんのような存在が貴重なのです」と池上さんは述べる。
最近、お骨を納めず自分で持っていたいという相談が多いという寂聴さんは、「気がすむまでそばに置いておきなさい 食べたっていいのよ カルシウムだから」と答えるという。95歳の寂聴さんの「可愛いさ」が随所に垣間見えるのも本書の魅力だ。
文=泉ゆりこ
瀬戸内 寂聴(せとうち・じゃくちょう 1922年5月15日)
小説家、天台宗の尼僧。旧名は、瀬戸内 晴美(せとうち はるみ)。1997年文化功労者、2006年文化勲章受章。
池上彰(いけがみ・あきら 1950年8月9日)
ジャーナリスト。東京工業大学特命教授、信州大学・愛知学院大学特任教授、京都造形芸術大学客員教授、名城大学教授、特定非営利活動法人日本ニュース時事能力検定協会理事。
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