2018年1月27日映画公開! 認知症の殺人犯を描き韓国でベストセラーとなった新感覚ミステリー『殺人者の記憶法』

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公開日:2018/1/10

『殺人者の記憶法』(吉川凪:訳/クオン)

〈俺の生涯の最後にやるべきことが決まった。パク・ジュテを殺す。それが誰であるのか、忘れてしまう前に〉

 主人公キム・ビョンス。70歳、男性。元獣医。そして、元・連続殺人犯。過去一度も逮捕されたり拘束されたりしたことはない。殺人はとうの昔にやめ、田舎で詩や古典を嗜みながらのんびりと暮らしていたが、とうとう病院でアルツハイマーと診断される。頼れるのは一緒に暮らす愛娘のウニだけ。ある日、そのウニが交際相手の男を連れてくる。男の名はパク・ジュテ。ビョンスはその目を見ただけで、自分と同じ“殺人犯”の匂いを嗅ぎとり、パク・ジュテの次なる殺人のターゲットがウニであることを確信する。そして記憶の喪失と闘いながら、娘を守るため、人生最後の殺人を計画する。

 韓国人作家キム・ヨンハの『殺人者の記憶法』(吉川凪:訳/クオン)は、韓国では予約だけでベストセラーとなり、発売すると同時に文芸書ランキング1位を記録。映画化もされ、日本では2018年1月27日に公開が予定されている。ソル・ギョング、キム・ナムギルといった日本でも人気の高い実力派俳優が出演することでも話題となっている。

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 著者のキム・ヨンハは、今の韓国で最も人気のある作家の一人と言っていいだろう。韓国国内の主要な文学賞は全て受賞しており、また、テレビやラジオ等の出演も盛んにこなし、インターネットでの読者との交流もおこなっている。日本ではこれまで『阿娘はなぜ』(白帝社、2008年)と『光の帝国』(二見書房、2008年)の二作が翻訳されている。

 本作は全編がビョンスの一人称で語られる。彼がアルツハイマーに罹っていることは、かなり早い段階で明かされるため、読者は彼の独白を「信頼できない語り手」のものとして読み進めることになる。つまり、ビョンスの独白のうち、何がどこまで本当なのかウソなのか、実際に起こったことなのか記憶違いなのか全く分からないのだ。しかしその不安定さが作品の吸引力でもある。彼の独白は、文末が〈~だろうか〉〈~ではないか〉といったように、推量で終わる形がとても多い。その中で、唯一、殺人に関する記憶だけは、自信たっぷりに断定して語る。次々と記憶を失っていく孤独感や不安、焦燥感に苛まれる中で、殺人だけが、ビョンスの拠り所なのだ。冷酷な連続殺人犯という本来なら憎むべき人物であるはずなのに、靴を逆さまに履いて人に笑われたり、自分の帰る場所が分からなくなったり、医者にすすめられたとおり運動や音楽鑑賞を始めてみたり、焼き豆腐定食を何回も作ってこれだけは呆けても一人で作れるだろうと言ってみたり、ビョンスの独白は読み進めるごとに切なささえ帯びてくる。「ウニを守るために、パク・ジュテを殺す」。それだけが、ビョンスの生きる目標であり希望なのだ。

 果たしてパク・ジュテとは一体何者なのか。愛娘ウニの運命は。そして、記憶を失い続けるビョンスのたどり着いた先にあるものとは。結末まで読み終えた時、思わずもう一度最初から読み返したくなるだろう。そして再読した時に広がる世界は、初めて読んだ時のものとは全く違うものになる。

文=林亮子