失敗から学ぶ「起業」―成功を勝ち取るために押さえておくべき“教訓”とは?
公開日:2018/1/11
近年、起業のハードルは下がったという声もある。一因にあるのはやはりインターネットの普及であり、ユーザーとしても想像にたやすいが、ネットを介した様々なサービスが生まれ続けている今、日頃のちょっとしたアイデアをビジネスへと転換しやすくなったようにもみえる。
起業の呼び名は様々だが、最近ではシリコンバレーの流れを受けて「スタートアップ」という言葉もよく目にするようになった。しかし、スタートアップを遂げても、長くは続かない事例も多々ある。いざ何かを立ち上げたならば成功を夢見るのは当然であるが、実際にサービスを運営している人たちはもちろん、起業を志す人たちにもぜひ読んでほしい一冊が『起業の科学 スタートアップサイエンス』(田所雅之/日経BP社)だ。
起業をテーマにした本は、書店や通販サイトでも数多く見かける。ただ、この本が秀逸なのは、圧倒的な取材量により数々の“失敗事例”を取り上げて分析している点である。
◎Googleですら失敗する! アイデアの“質”にこだわるのが出発点
スタートアップのハードルが下がった昨今、起業でまず重要なのは「課題の質にどうフォーカスするか」だと本書は伝える。ここでいう課題とは、ビジネスの出発点となるアイデアのことで、それが果たして「市場から求められているかどうか」を様々な角度から検証するのが大切となる。
自分にとって、もしくは自分たちにとってよい製品やサービスだと思い込んでいても、需要がなければビジネスとして成功させるのは難しい。その失敗例として、本書ではGoogleのメガネ型ウェアラブル端末「グーグルグラス」が取り上げられている。
2013年に発表された「グーグルグラス」は、2015年1月に個人向け販売の中止を余儀なくされた。ウェアラブル端末の先駆けとして満を持して投入された製品であるが、失敗の要因を本書は「自分たちが作りたいものからプロダクト作りが始まった」ことだと分析している。
加えて、本来はユーザーの持つ課題を多かれ少なかれ解決するものが製品やサービスには求められるが、カメラを内蔵した「グーグルグラス」は、プライバシー侵害の観点から入店拒否をするお店が現れるなど、結果として、社会に新たな問題を生み出してしまったとその経緯を解説する。
実績や資金力のあるグローバル企業ですら、失敗がありうるというのも大きな教訓だ。それを避けるためには、アイデアを吟味する時点で「今検討しているアイデアは、顧客にとって本当に痛みのある課題なのか?」「アイデアの妥当な代替案が既に、市場に存在していないか?」など、様々な角度から掘り下げてその“質”事態を磨き上げるのが重要だという。
◎起業するなら「97%のことにNoと言える」姿勢が大切
起業といえば、ある程度の資金を初めに確保し、会社を設立することだという考え方が一般的に広まっているようにも思える。しかし、スタートアップは必ずしも会社である必要はない。アイデアをもとにして製品やサービスを生み出し、そこにユーザーがいればビジネスとして成立するのだ。
本書ではスタートアップと、いわゆる一般企業で何かの事業を立ち上げるようなスモールビジネスとの違いに言及している。例えば、市場の違いはその一つで、スモールビジネスが既存の市場を狙う一方、スタートアップは時にまだ成熟していない不確かな市場を開拓する場合もある。
そのためスタートアップは「97%のことにNoと言えるか」が、鍵になると本書は伝える。例えば、製品やサービスを手がける場合に「差別化」という言葉もよく使われる。しかし、競合を意識しすぎると「あの会社がこう動いたから僕たちも動こう」と追随型になってしまうおそれもあり、作り手側の意向ばかりが重視されかねない。それを避けるためには、何よりも自分や自分たちの製品やサービスの質にこだわることへ、重きを置くべきだという。
また、起業をテーマにした様々なイベントもよく見かけるが、これらは「時間とコストに見合わないことがほとんど」だと本書は示す。本当に起業を志すのであれば、今やるべきなのは顧客や真に協力してくれそうな仲間を見つけること。業界の専門家からアドバイスを過度に乞うのも禁物で、ポイントごとのアドバイスを受けるならよいが、本来決断すべきなのは自分や自分たちであるのを忘れてはならないと教訓を伝える。
世の中では日夜、様々な製品やサービスが誕生している。起業のハードルが下がった現代においては、ひょっとするとちょっとした日常のアイデアが世の中をあっといわせるようなビジネスに発展するかもしれない。膨大な情報を収録した本書であるが、この本をきっかけに一人でも多くの起業家が誕生するのをささやかながら願いたい。
文=カネコシュウヘイ