高齢者特有の困った行動には歴然とした理由があった! 関係性がグンと良くなり心の負担が減る正しい接し方の処方箋

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更新日:2018/2/13

『老人の取扱説明書(SB新書)』(平松類/ SBクリエイティブ)

 本のタイトルからして、年々クローズアップされる“問題行動を起こす老人とうまく接する方法”なのかと思わせる『老人の取扱説明書(SB新書)』(平松類/ SBクリエイティブ)。確かにその通りの内容だが、単に臭いモノにフタをする的な発想とは真逆の、ユニークな切り口が特徴だ。

 眼科医である著者は、10万人以上の高齢者と接してきた経験から、老齢による周囲への実害や高齢者自身が困った状況を解消できる方法を長年追求してきたという。その蓄積した知識を集約したのが本書なのだ。

 高齢者特有の困った行動について、一般的には「認知症でボケてきたから」「カタブツでガンコになっているから」「若者や社会に対してひがみがあるから」などと思いがちである。しかし、これらは偏見であり、実際はボケや性格ではなく、老化による体の変化が原因であると著者は言う。

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 そのことを知らずに、対応を間違えると問題をこじらせてしまうそうだ。必要なのは、老化した体の箇所を見抜き、それが引き起こす問題に冷静に対処すること。すると、高齢者自身の心身の負担が減り、関連して卑屈になることも減っていく。このような好循環を生み出すためのノウハウが、本書にはぎっしり詰め込まれている。

 例えば、次のような高齢者に直面したら、どう対処するだろうか?

・都合の悪いことは聞こえないふりをする
・同じ話を何度もする
・「私なんていても邪魔でしょ?」とネガティブな発言ばかりする
・「あれ」「これ」「それ」が異様に多くて、説明がわかりにくい
・約束したのに「そんなこと言ったっけ?」と言う
・お金がないという割に無駄遣いが激しい
・命の危険を感じるほどむせて痰を吐いてばかりいる

 このような16種類の困った行動を全編にわたってピックアップし、その答えを医学的背景にそって、高齢者の体の状態を理解すべく解説している。

 例えば、「都合の悪いことは聞こえないふりをする」場合、「全部の音声が聞こえにくくなるわけではなく、高い音声、特に女性の声が聞こえにくいため」と、医学的な理由を明示。

 その対策を、「周りの人がしがちな間違い」「周りの人がすべき正しい行動」「自分がこうならないために」「自分がこうなったら」と、周囲の人と高齢者本人の心得に分け、それぞれに複数の対処法を教えている。

 聴覚や味覚などの五感の衰えからくる極端な反応や、体力の衰えによる不安定な動作についても、効果的なトレーニングを盛り込みながらレクチャー。

 見事なまでに、微に入り細に入り「本当の原因はここにあるので、こういうアプローチをしてあげましょう」と目からウロコで気づかせてくれて、困った状況で役立つものばかり。日常生活で実践しやすいよう、理路整然とまとめられているのもありがたい。

 高齢者の問題行動に関する本の中で、体の細部にわたって関連を指摘し、対処法を解いたのは本書が初めてという。いずれは高齢者の仲間入りをするであろう我が身を重ね合わせて、読み進めるのもいいかもしれない。

 何より、親との同居や介護などで、日々やり場のないストレスにさらされている人や、仕事で高齢者に接する人にとっては光明の書と言える。高齢者への理解が深まり、愛ある真摯な姿勢で対処するための知恵が詰まった1冊だ。

文=星野ユリカ