仕事ができる人が、必ずしもよい上司になれない理由。『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』著者:加藤光一×監修:坪田信貴対談<その2>
公開日:2018/1/29
「ほめちぎる」教習で、1万人の若者を伸ばし、合格率や事故率を劇的に改善。一流企業、大学、PTAまで、全国から注目を集める「ほめる人材育成」のノウハウをまとめた『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(KADOKAWA)。ほめることが会社全体の業績を底上げする効果について。三重県の南部自動車学校代表で著者の加藤光一さんと、「ビリギャル」の著者でもあり、本書の監修に携わった坪田信貴さんの対談第2回をお届けする。
■仕事ができる人が、必ずしもよい上司になれない理由。誰でもほめられるようになる「モノサシの変え方」
加藤光一さん(以下加):ほめるのが苦手な人というのも確かにいます。私の周りでは、若くして出世している人、優秀な人に多かったですね。スキルが高い人ほど、他人の悪いところが眼についてしまい、つい口に出してしまう。特に管理職にある人は、ほめるより改善点を指摘するのが仕事になっている面もありましたから、「ほめる」を身につけるまでは苦労していたようです。
坪田信貴さん(以下坪):具体的には、どんなことで克服しましたか?
加:面談を繰り返すうちに、優秀な人は自分をモノサシにして他人にダメ出しをしているんだと言うことに気がつきまして。「自分のモノサシに照らしてできていないから、この部下はダメだ」と。そこで、その人には「ダメなところもあるかもしれないけど、全部ダメなわけではないでしょう。できていない30%を指摘するのではなく、できている70%をほめてあげてくれませんか」そう言うと、ハッとした顔をして「ちょっと考えてみます」と言ってくれました。このほか、人事考課の時に横に座らせて、「君は気付いていないけど、この人にはこんないいところがある」というのを見せるようにしたりしました。それ以後は、よいところに気がつけば、ちょっとずつ「ほめる」ができるようになっていったように思います。
坪:自分と違うところを欠点ではなく、ほめるポイントとして見つけられるようになると、ほめるのは格段にうまくなりますね。自分以外のモノサシで評価ができるようになることは、他人の意見を受け入れるという面においても重要だと思います。
加:坪田先生のところではいかがですか。講師の先生はうまくほめられますか。
坪:いえ、最初からうまくほめられる人はほとんどいません。新人研修の時、「授業中、1回でいいからほめて」と言っても、どこが悪い、どこを改善しろという指摘はよく出てくるんですが、ほめ言葉はなかなか出てきません。「いい笑顔だね」とか「いい返事だね」と言うだけでいいのに、それができない。それがほめ言葉だということを知らないんですね。叱られて育ってきた人は、極論すれば「叱る教え方」しか知らない。
■「ほめたら調子に乗るのでは?」実はめったにおきない。実際にほめてから心配したほうがいい
坪:「自分のお子さんを1時間叱ってください」と言われればできる人はたくさんいるんですが、これが「15分ほめ続けてください」と言われると、とたんにできる人が少なくなります。
加:私のところでも、ベテランほど「ほめ」を言葉にできない、と言っていました。単にどうほめていいのかわからない、というのに加えて、「お世辞と取られそう」「恥ずかしい」などという人も多かったですね。
坪:ほめ慣れていない、自分がほめられてこなかった、ほめる語彙が少ない…などが大きな原因だと思います。でも単なるノウハウ不足なら、やり方が分かればいいわけです。よく「ほめたら調子に乗るのでは」などとほめたがらない人がいますが、本当に相手が調子に乗るくらいほめることができるなら、すごいことだと思いますよ。むしろいい上司は、どれだけ部下を調子に乗せることが出来るか、考えたほうがいいくらい(笑)。
加:坪田先生が解説で書かれていたように、結局は経験値の問題だと思います。最初はうまくほめられなくてもいい、とにかくロールプレイを繰り返す。ほめる回数を増やす。どんなに口べたな人でも、へたでも毎日ほめていれば必ず上手にほめられるようになります。
坪:「量質転化の法則」ですね。最初から質を求めてもうまくいかない、まずは量をこなしていくことで、やがて質がついてくる。ほめるのだって同じで、最初はうまくいかないでしょうが、何度も繰り返すことで必ずできるようになります。ちなみにほめるのが苦手な人は、どんなことから始めたんですか?
加:最初に2人1組になって、お互いを1分ずつほめ合うという練習から始めました。はじめの1週間くらいは、照れながらようやくほめ言葉を口に出すと言った態で、とにかく1分が長くてつらい、といった雰囲気でしたが、続けるうちに、ほめ言葉が自然に出るようになり、本当の笑顔に変わってきたんですね。すぐに、外面的なことだけでなく、相手のこと、相手の内面を考えてほめられるようになっていました。「ああ、これならうまくいくな」と思ったのをよくおぼえています。
坪:私の塾では「心の中で相手を抱きしめてあげてください」と言っています。人間、抱きしめている相手にはなかなか敵意をもてるものではありません。そして、心の中で抱きしめた状態で「相手のよいところを20個考えてください」という課題を出します。こうやって、それまで気づけなかった相手のよいところを見つける練習を重ね、「ほめる」につなげていくんですね。
加:私も、「相手のよいところに気づく」、という目線を育てることが、マネジメントにはとても大切だと思います。
坪:もう一つ、ほめる・ほめられるという関係で大切なのは、互いの信頼関係だと思っています。しっかりとした信頼関係ができているなら、極論ですが怒鳴りつけたって指導は成り立つ。そういう信頼関係を創り上げることを、心理学では「ラポールを形成する」といいます。ラポールというのは相互に安心して振舞える関係、というイメージでしょうか。ここで重要になるのは「相手を尊重すること」、そして「相手と同じ目標や考えを共有すること」の2つだと思います。「ほめる」というのはまさにこの2つを同時に行うことだと思っています。
加:まずはとにかくやってみる。量より質で。そのうちに、相手を観察し、尊重する目線が自然に育つんです。これは実際に教習所でほめてみて、実感できた大切なことです。指導員と生徒の間でどれくらい互いの信頼関係ができるかで、成績も大きく変わってくると思います。
■実践と理論のコラボレーション 「ほめちぎる教習所」は日本を救う?
加:本書を書くにあたって、私自身は心理学とか教育論といった裏付けがほとんどなく、経験的、実践的にやってきたことを、坪田先生が解説で理論づけてくださったので、とてもありがたかった。それに加えて、やってきたことがどうやら間違っていなかったようだということで、とても自信が持てました。社員に伝える時も、理論の後ろ盾ができたので伝えやすくなりました。
坪:私の方は、大学時代から理論の方を勉強して、それを教えるほうに適用してみようというやり方でしたから、ちょうど逆のやりかたですね。帰納法と演繹法の違いというのでしょうか、それでも同じ「ほめる」という結論に達することができたというのは、私も心強いです。「ほめる」教え方をする人がもっと増えれば、「これまでできなかったことができる」人が増えてくる。そうすれば、もっと世の中もよくなるんじゃないかなと思っています。「ほめる」指導が普及して、モチベーションを引き上げることができたら、GDPをぐっと上げることだって不可能じゃないと思っています。
加:「ほめる」で世直し、いいですねえ。
第3回「仕事、子育てのイライラを手放す!他人をほめるだけで、「自分のストレス」が減る」へ続く。
撮影:神保達也
原稿:能登雄一
【第1回】「ほめ」で雰囲気が明るくなるだけで、職場の売り上げ3倍に!
【プロフィール】
●加藤 光一:かとう・こういち
南部自動車学校代表。少子化、車離れで生徒数が減っていくことに悩み、実習プログラムの改変を決意。ほめると、モチベーションがあがり、結果がよくなることを実感した経験から、教員に「ほめ達検定」を受けさせ2013年2月「ほめちぎる教習」を実施したところ、大評判に。生徒数を3割増・事故者率減少という目覚ましい効果を上げる。現在では全国の教習所をはじめ、一流企業やPTA、大学など異業種からも視察が訪れ、南部自動車学校は「一般社団法人 日本ほめる達人協会 三重支部」としても活動している。
●坪田信貴:つぼた・のぶたか
坪田塾、塾長。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。経営者として、全国の様々な上場企業の社員研修や講演会に呼ばれ、15万人以上が参加している。著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が120万部のミリオンセラーに。近著の『人間は9タイプ』も累計10万部を突破。第49回新風賞受賞。