ジブリ作品が今より10倍面白くなる!? 押井守が語る「これまでのジブリ、これからのアニメーション」

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公開日:2018/1/18

『誰も語らなかったジブリを語ろう』(押井守/東京ニュース通信社)

 近年、アニメ映画が話題となることが多く、2016年に公開された『君の名は。』は、興行収入が250億円を超えるメガヒットとなった。日本の歴代興行収入ランキングでも4位という好成績だが、実はそのトップに君臨するのも同じアニメ映画である。それは『千と千尋の神隠し』で、制作したのは「スタジオジブリ」だ。制作された作品は常に話題となるヒットメーカーだったが、2014年に制作部門の休止が発表され、事実上解散。しかし最近、その中心人物であった宮崎駿監督が新作アニメ映画の製作を公表し、世間の注目を集めた。多くの「ジブリファン」にとって朗報であり、過去作が再評価されるきっかけにもなるだろう。ではそのジブリ作品を、同業の「あの」監督はどう見ているのか。『誰も語らなかったジブリを語ろう』(押井守/東京ニュース通信社)は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などの作品を手がけた押井守監督が、スタジオジブリの作品を独特の感性で批評していく。なお本書は、監督と映画ライターの渡辺麻紀氏による対談形式が採られている。

 押井監督はフリーランスとなった1984年頃、よく宮崎監督の個人事務所「二馬力」に出入りしていたという。ジブリの名物プロデューサーとして知られる鈴木敏夫氏も含めた3人でワイワイやっていたと述懐しており、そういう時代から「宮崎駿」という人物を観察してきたのだ。そしてジブリで制作された宮崎監督作品を通覧して語るところは「監督としての力ははっきりいって二流以下」という衝撃の評価だった。

 その評価に至った理由は多く語られるが、一番大きいのが宮崎監督自身が抱える「矛盾」にあると思われる。例えば宮崎監督はミリタリーマニアとして知られる一方で、実は「反戦」を強く訴えてもいる。また「アニメは子供のもの」としながらも、自らの作品でヒロインが敵を斬殺するシーンを描写する。そこを押井監督は「語りたい物語や描きたい画と、自分の性癖とがいつも闘っている」と指摘。ゆえに長編作品になればなるほどその矛盾が増え、物語が破綻するのだと論じている。

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 しかし「破綻している」ならばなぜ、宮崎監督作品はこれほど評価されるのか。押井監督はその理由が「ディテールの凄さ」にあると語る。ディテールとは「全体」に対する「細部」であり、この場合は「物語」に対する「細かい作画」だろう。押井監督も宮崎監督を「不世出のアニメーター」と最大級の賛辞をおくり、特に植物や水の描写は素晴らしいという。こういった圧倒的な作画によって、物語の辻褄が合わなくなっていたとしても観客を納得させてしまうのだ。なるほど確かに、宮崎監督作品はストーリーよりは、印象に残ったシーンのほうがよく語られている気がする。そして宮崎監督の力を得て、ジブリの「ブランド化」に成功した鈴木プロデューサーの手腕も大きい。「成功を重ねてきたジブリ映画は素晴らしい」というイメージを定着させ、賞賛するしかないという状況を作り上げたからこそ、宮崎監督作品は「不朽の名作」たりえたのである。

 あと本書で興味深いのは、ジブリにおける「第三の監督」について。ジブリは宮崎監督と高畑勲監督によって牽引されていたことはよく知られているが、彼らに続く「第三の監督」が待望されていた。実は押井監督も、そのひとりとして声をかけられていたという。結局それは実現しなかったが、近藤喜文監督が「第三の監督」として『おもひでぽろぽろ』を担当。人望も厚く宮崎監督も一目置いていた人物だったが、1998年に急逝している。もし存命ならジブリの映画製作はもう少し続いたかもしれない。

 全体において押井監督のジブリ映画に対する評価は辛口だ。しかし理路整然と批判を展開しているため、納得できる部分も多いはず。私自身も割と大雑把にジブリ映画を観ていたことに気づかされ、改めて観なおしてみようかという気にさせられたのである。

文=木谷誠