2017年いちばん泣ける歌、「お義父さん」が小説になった! はなわ家の夫婦・家族愛に笑い、涙する

小説・エッセイ

公開日:2018/1/26


 2017年3月、ある1曲がYouTubeに公開された。投稿者は佐賀県出身の芸人、はなわ。「お義父さん」というタイトルのこの曲は、わずか20日間で100万回再生を突破し、CD化された。そして、この年いちばんの涙腺崩壊ソングとして多くの人に知られることになる。
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 はなわと言えば2003年に爆発的ヒットとなった曲、「佐賀県」のイメージが強い人も未だ多いだろうが、一方で大の愛妻家としても知られている。中学時代の初恋の人・智子さんと紆余曲折を経て結婚し、3人の子どもに恵まれた。はなわのブログや、時折家族で登場するテレビ番組からは、愛に溢れた家庭の様子をうかがい知ることができる。

「お義父さん」が制作されたのも、智子さんの誕生日がきっかけだった。結婚15周年でもある妻の誕生日当日、はなわは幼い頃に家を出ていったきりだという、義父へのメッセージソングを家族の前で披露した。聞くなり智子さんが号泣したというその曲こそが「お義父さん」であり、本書『お義父さん』(はなわ/KADOKAWA)は、その小説版となる。

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 メッセージソング「お義父さん」の歌詞は、智子さんの送ってきた人生を義父に語りかけるような内容だが、本書は著者であるはなわの生い立ちや主観を交えながら、智子さんとの軌跡を辿るような構成になっている。智子さんに恋した佐賀での中学時代、徐々に距離を縮めながらも経験した失恋、芸人を目指して上京していた頃の偶然の再会から、付き合うようになるまでなど、ひとつひとつの甘酸っぱいエピソードが丁寧に書かれている。フィクション小説のように特に何か劇的な出来事が起こるわけではないが、数十年変わらぬ著者の智子さんへの真摯な想いが伝わってきて、温かい気持ちで先を読み進めることができる。こんな男に娘を嫁がせたいと、多くの親御さんは思うのではないだろうか。

 本書の中で、著者が義父を責めるようなことはない。ただ、文章の端々から、父がいないことで妻が味わった辛さや悲しみを分かってほしいという想いは伝わってくる。智子さんの姉が街で有名なヤンキーだったということもあり、彼女の家は不良たちのたまり場となっていた。中学生だった智子さんは、いつも自分の部屋に閉じこもっていたという。著者は本書の中で、義父にこう語りかける。

「お義父さん、この時、彼女がどんな想いで部屋の中で息を殺していたのかを、アナタは考えたことがありますか? そして、妹をそんな悲しい気持ちにさせていた姉が、どうしてそんなにグレてしまったのかを考えたことがありますか?」

 義父がなぜ昔、幼い娘たちを残して家を出ていったのか、その理由は曲の中でも本書でも語られていない。家族の問題に立ち入ってはいけないという著者の生真面目さと、妻への愛情が感じられる姿勢に好感を持つことができる。

 曲「お義父さん」がきっかけではなわ家と義父は交流するようになるが、末期がんを患っていた義父は、本書の完成を待たずして他界した。告別式で著者は、涙を流しながら「お義父さん」を歌ったそうだ。時を経ても、わだかまりがまったくなくなったわけではないだろう。でも、晩年に再び娘家族との時間を持つことができ、義父は穏やかな気持ちで旅立ったのだろうと想像せずにはいられない。曲と小説、どちらも堪能してはなわ家の歴史に想いをはせ、温かい気持ちを感じてほしい。

文=佐藤結衣