「ブラック残業」の餌食になってない?「働き方改革法案」が生む新たな恐怖とドイツの驚きの年間休日数

ビジネス

更新日:2018/2/13

『文藝春秋オピニオン2018年の論点100』(文藝春秋)

 2017年12月26日、電通のグループ会社社員が、自宅に仕事を持ち帰って行う「隠れ残業」をしていることが発覚したと、産経ニュース他のメディアが報道した。

 残業代は当然のごとく支払われないこのボランティア残業を「ブラック残業」と呼び、世のサラリーマンたちに「要注意」と警鐘を鳴らすのは、弁護士ドットコム編集部の記者、山口紗貴子氏だ。

『文藝春秋オピニオン2018年の論点100』(文藝春秋)に掲載された論考「『働き方改革法案』が生む『ブラック残業』」で著者の山口紗貴子氏は、違法な長時間労働の問題の元凶をこう記している。

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長時間労働の本質的な是正に取り組まない企業が出てくるのは、労働基準法などの法令違反が、致命的な経営リスクになっていないことが背景にある。実際、電通の違法残業問題で同社に科されたペナルティは罰金50万円にすぎない。

 企業側に対するもっと厳しい処分が必要なのだが、その一方で著者は、企業を監視する立場にある労働基準監督署の体制も脆弱すぎることを、具体的な数字をあげて指摘している。こうした現状の中、残業を制限した「働き方改革法案」が生み出したのが、自宅に仕事を持ち帰ってボランティアで処理する「ブラック残業」だ。

 本稿に登場する大手通信会社の女性管理職者(40代)は、「部下たちが残業時間を大幅抑制された分、管理職がカバーせざるを得ない」と言い、「残業代ゼロで、24時間いつでもどこでも働かざるを得なくなった」と吐き捨てている。

 ではどうすれば、問題解決につながるのか。著者は2016年に公表された「過労死等防止対策白書」をひもときながら、多くの企業が残業の発生理由として「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」と回答していることを指摘し、「企業も社会も『過剰なサービス』の追求や要求をもうやめるべきだ」と、価値観の転換を提起している。

 著者の指摘する、過剰サービスの廃止を徹底しているのがドイツである。本書には、山口氏の本稿のすぐ隣のページに「年間150日休むドイツ人の働き方」(草笛一郎・ジャーナリスト)という論考が掲載されており、それを読むとまさに、日本の労働環境の改善策の大きなヒントがドイツにあることがわかる。

 米国、中国、日本に次ぐ第4位の経済大国でありながら、ドイツでは年間150日休めるのだ。ぜひ、特に企業経営陣などのエグゼクティブの方々には、両記事を併せ読んでいただきたいものである。

文=町田光