押見修造も絶賛する注目作家のデビュー作がついに解禁! 恋愛に潜む“狂気”を美しく描いた短編集『boy meets “crazy” girl』
更新日:2018/2/19
雑誌『FEEL YOUNG』に掲載されていた川夏子氏の短編が単行本にまとめられた。その名も『boy meets “crazy” girl』(川夏子/祥伝社)。デビュー作となる本作には、“crazy”な女の子や男の子に出会える物語が全11編収録されている。
このクオテーションマークのついた“crazy”、本来の意味ではストーカーやDVのような過激な話を連想させる。だが本作に描かれているのは誰もが感じたことがあるような、人を恋するがゆえに生まれるささやかな“狂気”である。
収録作「0か100かの極端ガール」は、ずっと片思いしてきた先輩の退職を機に、自分の世界から先輩の存在を消し去ろうとする女の子の話だ。先輩が残した図鑑や実験器具をすべて燃やし、その火で焼けた餅を食べながら「私の記憶からいなかったことにするつもりです」と言う女の子。表情やセリフに未練がましいところがなく、その潔さが逆に読者をヒリヒリとさせる。
また「キミになりたいガール」の女の子は、ある男の子の髪型や服装を隅々まで真似をする。ロングだった髪をショートに、服装もボーイッシュに変えてしまう。それが男の子を好きすぎるゆえの行動と知った男の子は、女の子をとても愛おしく感じる。
一貫して湿っぽいシーンがなく、わずらわしい主人公の吐露もない。相手に求めすぎる恋愛ドラマが多いなかで、依存のない愛の形をデビュー作に仕上げてくるところに川氏の凄さを感じる。
また、『惡の華』や『ぼくは麻理のなか』で知られる押見修造氏が「ふるえているような瑞々しさを感じました」と帯に評しているが、全編を通してデビュー作ならではのフレッシュさが漂う。そういう意味でもこの短編集は、色とりどりの“crazy”を詰めたドロップ缶のようだ。
ぎゅっと濃縮された一編のなかに、主人公の“crazy”さがキラリと光る。「0か100かの極端ガール」は酸味の効いたレモン味、「キミになりたいガール」はストレートな甘さのイチゴ味。どの味も愛おしくて、自分も過去の恋愛を遡ったら、美しい“crazy”が見つかるんじゃないかという気分にさえさせるのだ。今後、川氏は『boy meets “crazy” girl』のどの味を色濃く展開させていくのだろうか。今からとても楽しみである。
文=寺田真央