「結婚したい!」「子どもも欲しい!」しかし現実は… 社会保障制度の崩壊につながりかねない日本の人口減少問題

社会

公開日:2018/1/30

 国民年金保険料などの支払いに行くたびに、複雑な心境になってしまう若い世代の人は多いことだろう。この少子高齢化社会の中で、自分が汗を流して得たお金が、まるで「吸い取られている」かのような感覚になってしまうのではないだろうか。

 今、日本の社会保障は大きな転換期を迎えていると説くのは山崎史郎氏。「ミスター介護保険」と呼ばれた前地方創生総括官である。1978年に旧厚生省(現厚生労働省)に入省し、内閣府や内閣官房でリーマンショック前後の経済雇用対策などを担当。生活困窮者支援の素案づくりや少子化対策、地方創生などに携わってきた人物だ。そんなエキスパートが現在の日本の難題を解剖し、我々の進むべき道を提言する注目の新刊『人口減少と社会保障 孤立と縮小を乗り越える(中公新書)』(山崎史郎/中央公論新社)をご紹介したい。

■家族と雇用の変化、そして人口減少の到来

 日本の社会保障が前提としてきた「社会」の大きな変化の波は、確実に訪れている。第一の波は、「家族」の変化。第二の波は、「雇用システム」の変化である。核家族世帯の増加(図Ⅰ)や非正規雇用者の増大(図Ⅱ)はこれまでにも注目を集めてきた。そして、今まさに第三の波がやってきている。これが決定的になるであろう、「人口減少」の到来であると著者は説く。2016年10月に公表された国勢調査の結果は、1920年から開始された同調査において初めて人口減少を記録。日本の社会保障は、創設以来一貫して「人口増加」の下で形作られてきた。この人口減少が、社会保障を成り立たせるうえで大きな問題となることは火を見るよりも明らかだ。

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『人口減少と社会保障』19ページより引用

「世帯規模の縮小」は、家族同士が支え合う機能の低下を意味する。

『人口減少と社会保障』28ページより引用

2016年の非正規雇用総数は雇用全体の3分の1以上である。また、本人が希望していないいわゆる「不本意非正規」もリーマンショック後に急増し、雇用全体の15%を超える。

 人口減少は突然始まったのではなく、日本の家族と雇用システムの変化(第一、第二の波)が大きく関わっており、そうした変化の行き着く先として生じた社会現象であると著者は説く。本書で著者は、上述した大きな社会変化の実態とメカニズムを解明し、そのうえで、今後社会保障が目指すべき基本方針を提示している。本書の論点は、あくまでも「社会保障」全体の基本構造に関わるテーマである。医療、介護、年金、子育てなど、個別の制度の課題や動きを追いかけていると、各論の「迷宮」に入り込みかねないため、社会の現状と社会保障全体というダイナミックなつながりを論じているのだ。

■「合計特殊出生率1.14」と「希望出生率1.8」

 社会保障を今後も成り立たせるうえで重要なカギとなってくるのが、「出生率回復」だ。日本の2016年の合計特殊出生率は1.14と低水準で、ドイツ、韓国、台湾なども同じような状況に喘いでいる。一方、フランス、アメリカ、スウェーデンなどは先進諸国の中では高水準を保っている(図Ⅲ)。

『人口減少と社会保障』153ページより引用

 この現状に対して、「若い世代は子を持つ気がない」と結論付けるのはナンセンスだ。本書では、「希望出生率」という興味深いデータが紹介されている。18歳から34歳の未婚男女を対象とした意識調査(社人研「出生動向基本調査」2015年)によると、「いずれ結婚するつもり」と答えた人の割合は男性が85.7%、女性が89.3%に達しており、若い世代の多くは結婚の希望を抱いている。ところが現状の未婚率はかなり高く、希望と現実の乖離は大きい。また結婚した夫婦のほとんどが子どもを欲しており、理想とする子ども数は平均で2.32人となっている。こうした若い世代の結婚、子育ての希望が実現するならば、日本の出生率は1.8程度の水準にまで向上すると見込まれると著者は説く。

 上の紹介は一部に過ぎないが、本書はさまざまなデータを駆使して我が国の「危機の実態とそれらのつながり」を明白にし、私たちがこの人口減少の波を乗り越えるための打開策を展開していく。社会的な孤立の防止やサービス改革、地域組織の再編などの抜本的な改善は、社会保障全体の機能を維持するうえでは欠かせない。これからの日本を生きていく我々にとって必読の1冊と言えよう。

文=K(稲)