May’nとして、10周年。ついにたどり着いた、「あなたとわたしだけ」の歌――May’nインタビュー
更新日:2018/2/7
May’nにとって15枚目のシングルで、TVアニメ『魔法使いの嫁』のオープニングテーマにもなっている『You』(2月7日リリース)。シンガー・May’nの真髄を見せつける渾身のシングルだが、表題曲のサビのラストに、強烈な印象を残す一節がある。《一人きりじゃない世界 だけど君はたった一人 君しかいない》。「一人きりじゃない世界」を歌った楽曲は、過去にいろいろあるかもしれない。だけど、それと同時に「君はたった一人 君しかいない」と訴えてくる楽曲は、なかなかない。May’nは今、自らのすべてをさらけ出し、全身全霊で音楽を楽しみ、聴き手である我々ひとりひとり=「君」とコミュニケーションすることを切実に願っている。だからこそ、《君はたった一人 君しかいない》というフレーズは、とても深く突き刺さってくる。『マクロスF』でMay’nとしての活動がスタートしてから、今年で10周年。さらなる進化を誓うMay’nが歌う“You”は、新たな始まりを告げる1曲だ。
今までの人生とか、今持っている気持ちとか、そういうものをすべて注ぎ込まないと歌えない曲
――ニューシングルの“You”、これこそ王道というか、May’nにしか歌えないオンリーワンの楽曲になっているな、と思いました。ご本人はどう感じているんでしょうか?
May’n:わたしも、シングルでこの曲を出せるのはすごく幸せだな、と思っていて。前回のアルバム(『PEACE of SMILE』)でも手応えがある制作ができたんですけど、その後に出させていただくシングルで、「自分はどういうものを歌いたいのか」って思ったときに、何よりも応援してくれたみんなのおかげでわたしは今ここにいるから、みんなへのありがとうだったり、「これからもっともっと自分を信じて進んでいくから、これからもよろしく」的なことを歌えたらいいなって漠然と思っていたんです。自分の殻を破ることの怖さがあったけど、みんなが自分のことを愛してくれて、「だったらわたしも、ちゃんと自分のことを愛そう」ってみんなに教えてもらって。そういう覚悟が『魔法使いの嫁』の今後のストーリー展開と合致したので、歌にできてよかったなって思います。
――“You”は、とてもドラマチックな展開をする曲じゃないですか。だけど、音がやたらと分厚いわけではない。ボーカルの真価が問われるという意味でも、気合いが入る曲だったんじゃないですか。
May’n:そうですね。自分をさらけ出さないと歌えない楽曲だなと感じて、うわべじゃなくて全部にちゃんとメッセージを持たせたかったし、息遣いひとつにもすごくこだわってレコーディングをすることができました。歌うというよりも、走りながら自分の思いを叫んでいるような、とにかく走り抜けていく感じを表せたなと思います。すごくパワーを使う楽曲なんですよね。自分のすべてを注ぎ込まないといけないので。この一曲を歌うことで、自分を全部削り出していくような感覚、というか。今までの人生とか、今持っている気持ちとか、そういうものをすべて注ぎ込まないと歌えない曲だなって感じました。だから、絶対この曲をいいものにしたいと思ったし、デモレコーディングをしたときから完成形が見えたので、自分の理想に近づけたいっていう気合いもすごく入りました。バンドさんのレコーディングにも立ち会わせていただいたんですけど、「とにかくわたし、この曲は気合い入ってるんで、いい感じでお願いします!」みたいな、よくわかんないリクエストを力強くして(笑)。
――(笑)自分の名義で出す歌だから、そこには責任も伴うし、何よりとてもしっくりくる曲であったと。だから思ったことは全部言いたい、だってこれは自分なんだから、っていう。
May’n:そうですね。ほんとに、自分のことを歌えているな、という感覚はありました。作詞家の岩里祐穂さんには『マクロスF』のときからお世話になっているんですけど、「これは岩里さんからのプレゼントでもあるんだよ」ということをディレクターさんが教えてくれて。最初に受け取ったときから、「今までのわたしの人生を知ってくれた上で書いてくださった歌詞なんだな」って思ってました。
――タイトルが“You”で、歌を届ける対象もひたすら“君”じゃないですか。そこにはいろんな意味があるけれども、歌の構造的にはシンプルだと思うんですよ。一直線で行く、みたいな。だから歌う側がブレると聴く人に伝わっちゃうんだけど、“You”にはまったくブレがないから、ガツンと伝わってきます。
May’n:ふたつのイメージがあったんです。ひとつは、自分自身にも歌いたいなってすごく思っていて。「たくさんの正解があふれてる毎日だけど、あなたが信じたことをちゃんと正解と思っていいんだよ」っていう。わたしが今まで悩んできたことを改めて肯定してあげたいなって今は思えるというか。なので、ちゃんと自分にも嘘なく伝えたいと思いました。あとは、最近ライブをしていて、たくさんの方が目の前にいてくれてるけど、一人×何千人っていう感覚でライブをしたいって強く思っていたので、ファンのひとりひとり、あなたに向けてちゃんと歌いたいっていう気持ちを絶対に失いたくないな、という思いでレコーディングしました。ひとりひとりっていう意識は、最近すごくあって。たぶん今までは、“皆さん”の方が強かったんですよ。でも今は、「あなたのことを見て、この瞬間だけはあなたのために歌うね」みたいな、気持ちのつながりをすごく求めてるなって。「伝わらないんだったら、伝わるまで見るからね!」みたいな、ひとりひとりとの深いつながりを求めてしまう自分がいる気がします。ツアーをしていても、それを感じるんですよね。もちろん、聴いていただく「あなた」に向けて、さらにこの楽曲は『魔法使いの嫁』の主題歌なので、主人公のキャラクターたちの背中を後押しする楽曲でもあるんです。
これだけ一対一で歌える曲って、“You”が初めてなのかもしれない
――今回タイアップになっている『魔法使いの嫁』は、コミックもアニメも人気作品ですけど、作品全体にはどんな印象を持ってたんでしょうか。
May’n:すごく切ないし悲しいけど、同時に美しいなって思いました。主人公のチセは死に憧れた生活を送り、エリアスも人間の感情を知識として理解はできるけど、共感することができない。愛情や共感と言った感情とは無縁のふたりだったはずなのに、いろんな人との出会いでたくさんの情を感じて、与えられるようになっていく。すごく温かくて美しい物語だなっていうのが第一印象です。
――さっき“You”にはいろんな意味がある、という話をさせてもらったじゃないですか。実際、シンガーMay’nにとっては自分を思いっきり投影できる、だからこそ熱くアプローチできた曲である、と。同時に、この曲の歌詞における“You”とは、つまりチセのことじゃないですか。
May’n:はい。
――だから、「チセに届ける」っていう視点も、この曲を歌うときにあったのではないか、と思って。さらにひとつポイントになるのは、作品の設定ではチセが15歳である、ということで。15歳って、May’nになる前の中林芽依がデビューした年齢なんですよね。
May’n:おぉ~、ほんとだあ。気付いてなかった(笑)。そこは正直意識してなかったです。でも、過去の自分に問いかけたいなっていう意味はすごくありましたね。
――チセが15歳だから、そこにも運命を感じたのかな、的な……
May’n:うん、めいん……。
スタッフ:今、ものすごい勢いでごまかしたね(笑)。
――(笑)。
May’n:(笑)でも、過去の自分に、もっと自信を持ってよかったんじゃないかな、とか、もっと自分を愛してあげてもいいんじゃないかって語りかけたい思いがあるのは、年齢を重ねた今、ほんとに“You”と同じで。「そのままでいいんだよ」「もっと自分を信じていいんだよ」って昔の自分にも言ってあげたいし、「そうやって言える今があってよかった」って改めて噛みしめる思いでも、今の自分にも歌えたし。「チセにもわかってほしい」というか、チセはまだまだ成長途中だからこそ、語りかけたいという思いはあった気がします。でも、チセはチセで作品が進んでいくとけっこう成長していくけど、実はエリアスも人間のことがわからなくて、チセとわかりあえなくなってしまうシーンもあったりするので、「チセの立場になってエリアスに対しても歌えるな」っていう部分もありました。エリアスはエリアスで、意外と闇があるというか。自分が悩んでいることもわからないから、実はすごく悲しいキャラクターだな、と思って。エリアスにも成長してほしいなっていう思いは、この曲を歌いながら湧き出た感情ですね。わたし自身も、「裏切られたら怖いから信じない方がいいんじゃないか」とか、素直になれなかったところが15歳の頃にはあったと思います。だから、「間違えながらでも走り抜ける」的な歌詞がすごくいいな、と思っていて。あとは、「どんな自分も、全部自分なんだよ」っていう。当時のわたしは、たとえば学校で見せる自分と、大人に見せる自分が違うことにすごく悩んていて、「どれが本当のわたしなんだろう」みたいな感じがあって。だけど、「どんな自分もわたしなんだ。ちょっといい顔しちゃう自分もいるし、ちょっとはっちゃけちゃう自分がいるところもわたしなんだな」と思えるようになった時期があって、そういうことも“You”をいただいたときに思い出しました。「何が本当の自分なんだろう」って悩んでる人がいたとしたら、「たくさんの人がいる中でも本当にあなたはあなたしかいないんだから、あなたが思ってることはあなたにとっての正解なんだよ」ということをちゃんと伝えたいって思いました。
――“You”の歌詞で特に印象に残るのは、《一人きりじゃない世界》だと思うんです。で、もっと印象的なのは、《だけど君はたった一人 君しかいない》っていうフレーズで。
May’n:そうなんですよ! ほんとに最高なんです。さすが岩里さん、という。
――これって、自分自身の価値を見つけて生きていきなさいっていうメッセージじゃないですか、だから、May’nさん自身にも、チセや作品に対してもそうだし、聴く人にも力を与える言葉ですよね。
May’n:ほんとにそう思います。わたしも、そこが大好きなフレーズで。わたしも、自分を見失いそうになるときが何度もあったけど、今後悩んでしまったときに、心が揺れ動いたとしても、「でもわたしはわたしだ」ってちゃんと言える曲に出会えてよかったなって思います。「いろんな人がいるけど、あなたはあなたしかいないんだよ」っていうことをこんなにもシンプルに、だけど強くまっすぐに歌える楽曲に出会えてよかったです。チセ自身もずっと死を意識していたけど、「どんな毎日だったとしても、死じゃなくて、生きる方を選んでみよう」って思ったチセをちゃんと認めてあげたいと思ったし、その力強さは絶対に失いたくないな、と作品を読みながら思いました。こんなに広がりがあってスケールが大きい曲なのに、「あなた」という対象に向けて歌えるので、歌っていても力が入りますね。早くライブで歌いたいです。「解禁はいつですか」って何回も聞いたんですよ。最近は、怒られてもいいからとりあえず聞くっていう(笑)。ずっと、わりといい子にしてきたんですけど、最近は前のめりで。前のめりすぎて大人が止める、みたいな。
――マインドが若返ってる(笑)。
May’n:(笑)そうかもしれないですね。今、めっちゃ楽しいです。
――すごくいいモードですよね。あとは、さじ加減を覚えなければ、ですかね(笑)。
May’n:(笑)2018年のテーマですね、さじ加減。
――「ブレーキをかける」とか。
May’n:いいですね。今までずっとブレーキをかけてきたけど、改めていいブレーキをかけます。
――今はブレーキ壊れちゃってるのかな?
May’n:2016,17年で一回壊れました(笑)。壊れたことで、踏み方がわかった。全部がライブに通じるからこそ、嘘のない自分でいたいっていうのが最近のテーマになっていて。シンプルに、みんなに楽しんでもらえることをしたいなって思ってます。
――ちなみに今年は、中林芽依からMay’nになって10周年ですよね。
May’n:そうなんです。戌年で、フライングドッグに来て10周年。超節目です。
――節目である2018年に挑戦したいことってなんですか?
May’n:今、強く思ってるのは、もっと歌がうまくなりたいっていうことです。ちっちゃいころから歌を歌ってきたけど、こんなに「もっともっと歌うまくなりたい」って思ってるのは初めてで。最近、引き出しを増やす大切さを感じていて、自分を客観的に見たときに不得意な部分をもっと伸ばしたいなって思います。今までは、自分より歌がうまい人がいたり、自分はできないな、と思う瞬間があることがすごくイヤだったんですけど、今は逆にワクワクしていて。「わたし、これできないかも。でもがんばろ!」みたいな。だから2018年は、もっと歌がうまくなりたいです。
――May’n10周年の中で、“You”はどんな意味を持つ曲になっていくと思いますか?
May’n:今日、お話をしていて、ほんとにひとりを見ていないと歌えない曲なんだなって、改めて思いました。『マクロスF』でMay’nのキャリアがスタートしてから10周年ですけど、もしかしたら“You”は「初めて銀河の妖精じゃない歌」なのかもしれないな、って思います。今までもMay’nとして歌ってきたし、別にシェリル・ノームから脱却してないなんて今でも思ってないし――わたしはシェリルであり、シェリルじゃない、という思いでずっとやってきたんですけど、シェリルは銀河の妖精なので、銀河を歌で包み込むような楽曲がすごく多いんですよね。わたしはそんなシェリルに憧れているからこそ、「みんなに歌を届けたい」と思ってきたけど、普通にひとりの人間として、ちょこんと横にいてお茶しているような楽曲、これだけ一対一で歌える曲って、“You”が初めてなのかもしれないなって思って。10年をかけてここにたどり着いたのはすごく感慨深いなって、今思いました。
取材・文=清水大輔 撮影=藤原江理奈
スタイリング=伊藤彩 ヘアメイク=サカノマリエ