もはや格差社会から階級社会に…日本社会に広がる「自己責任論」

社会

公開日:2018/2/12

『新・日本の階級社会(講談社現代新書)』(橋本健二/講談社)

 一億総中流社会。ひと昔前、1975~1980年頃の日本社会を表す言葉だ。当時の日本人はみんな「中流意識」を持ち、家計の程度にかかわらず、「私は普通の暮らしをしている」と思っていた。それから約40年。今では格差社会が叫ばれるようになり、貧困問題が勃発している。老若男女、すべての日本人が多かれ少なかれ自身の将来を案じているのだ。しかし『新・日本の階級社会(講談社現代新書)』(橋本健二/講談社)を読むと、この問題はもう少し根深く感じる。日本は「格差社会」ではなく「階級社会」に陥ってしまったようだ。

 本書は、階級・階層研究を行う社会学者の研究グループが調査して得た「社会階層と社会移動全国調査(2015年版)」(=通称SSM調査データ)と2016年首都圏調査データをメインに用いて、詳細に日本の階級社会化を分析した一冊。本書を手にするだけで、日本人の社会的な階層ごとの経済状況がまる分かりと言っても過言ではない。たとえば女性の場合、結婚するかどうかによってステータスは大きく変わる。そこで、サラリーマンの妻、社長夫人、非正規雇用の独身女性など、17のグループに分けて格差構造を分析しており、本書を手に取った読者全員が舌を巻くはずだ。

■新しい階級「アンダークラス」

 著者は日本がどのような階級社会に陥ったのか述べるため、働く人々を4つの階級に分けている。

advertisement
『新・日本の階級社会』P62より 図表2-3 現代社会の階級構造

・資本家階級
 5人以上の従業員を雇う経営者、もしくは役員がこの階級に該当する。個人平均年収は604万円、30人以上の従業員を有する企業にしぼれば861万円に達する。

・新中間階級
 こちらは管理職など、高度な業務と専門性を有し、その立場にいる人々のことだ。資本主義が発達するにつれて、労働者階級から派生した階層のため、この名称となった。

・労働者階級
 一般的なサラリーマンの階層だ。正規労働者に限ると、個人平均年収は370万円。

・旧労働者階級
 こちらは主に自営業者のことを指す。資本主義以前から存在した人々であり、自身で仕事を得ながらも、労働者のように働く一面もあることから、この名称がつけられた。

 上記の4つの階級自体は、1975年頃から存在していた。問題は格差が広がるにつれて、労働者階級が分裂し始めたことだ。早い話が、非正規で働く人々が増加したのだ。言わずもがなその人口は年々増加し、前出のデータを分析するとその人口は約15%、929万人もいるそうだ。搾取され続ける彼らの個人平均年収は186万円で、労働者階級の数字を大きく下回る。著者は労働者階級の下にできた新しい層を「アンダークラス」と呼んでおり、現代の日本社会は4つの階級から5つの階級社会へ変化したと指摘している。

■日本社会に広がる「自己責任論」

 本書では、アンダークラスが抱える重い現実、時代が進むにつれて差が生まれ始めた「中流意識」の変化などについて解説しているのだが、注目すべき点は他にもある。

 2015年のSSM調査では「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついても仕方がない」という考えに対する賛否を問う設問がある。その結果が下の図だ。

『新・日本の階級社会』P44 図表1-11 広く受け入れられる「自己責任論」

 まず、全体の過半数がこの考え方に肯定的なこと、そして貧困層の4割以上も同様の意見を持っていることに注目してほしい。さらに、SSM調査では「今後、日本で格差が広がってもかまわない」という考えについて問う設問もある。下の図は、格差拡大を肯定・容認する人の所得層ごとの比率だ。

『新・日本の階級社会』P43 図表1-10 格差拡大を肯定・容認する人の比率

 肯定的な意見はどの層も過半数に達しないこと、貧困層になるほど比率が下がることが分かる。しかし2005年のデータと2015年のデータで比べると、全体的に肯定的な意見が増えていることも分かる。

 これらより「自身の経済状況は自身が招いた結果によるものだ」という、いわゆる「自己責任論」が日本社会に広がりつつあることを著者は指摘している。本書を読んだ人はきっとこの事実に愕然とするはずだ。今後、貧富の拡大を止める世論の声が小さくなる未来を示しているのだ。これは絶対に阻止しなければならない。

 本書ではこの階級社会を是正するための提言が述べられており、社会的影響力の大きい資本家階級や新中間階級の人々は、ぜひ自身の行いを見直して、これからも正しい経済活動をしてほしい。

 格差問題に対する意見を述べるのは簡単だ。しかしその詳細な現状を知らないと、正しい意見や根拠のある意見を述べられない。格差に怒る前に、貧富の差を自己責任と片付ける前に、まずは何かしらの方法で日本社会の現状を知って、それから自身の意見を述べるべきだ。世論こそが社会を大きく変える力となるので、私たち一人ひとりが今の社会をしっかり見つめて意見を持ち、社会や政治に反映すべく少しずつ声を上げていきたい。

文=いのうえゆきひろ