働き方改革を邪魔しているのは誰? 仕事とうまく付き合うために知っておきたいポイント

ビジネス

公開日:2018/2/13

『誰が「働き方改革」を邪魔するのか』(中村東吾/光文社)

 長時間労働や待機児童、介護離職など、労働環境の改善にまつわるキーワードが山積している。そのような世相のもとで、政府が推し進めるのが「働き方改革」だ。厚生労働省のホームページによれば、目的は「課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」 だという。

 ここでいう課題の根本に、労働現場から聞こえてくるさまざまな声があるのは容易に想像がつく。ただ、実際に働いているわれわれの立場からすると、いったい何をどうするために、またどう進んでいるかが不透明なのも事実だ。働き方改革による労働の多様化戦略は、どれくらい浸透しているのだろうか? そんな疑問に応えるのが、書籍『誰が「働き方改革」を邪魔するのか』(中村東吾/光文社)である。
 本書が俯瞰するのは、労働現場の現在とその未来。働き方改革を推し進めようとする社会の先には何が見えるのか、その内容を紹介していこう。

■実力主義がますます加速する仕事場にどう対応するか?

 終身雇用制は崩壊したと叫ばれるようになって久しい。経済のグローバル化などその要因を探ろうとすればキリがないのだが、いずれにせよ、著者は社会が今後ますます「間違いなく実力主義を濃厚に推し進めていくだろう」と推測する。
 会社には従業員を守る義務もあるが、その対象は「企業で力を発揮してくれる貢献者」に絞られるのではと著者は指摘する。与えられた役割のみに徹しようとするいわば“ぶらさがり社員 ”の問題にも通じるが、長く勤務したという時間を“功績”として評価するのではなく、重要視されるようになるのは会社利益をどれほど生み出すかという“実績”だ。

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 さらに、少子高齢化に伴い高齢者人口の母数が増えることで年金制度の崩壊もますます進み、これらの状況を今まさに肝に銘じておかないと、私たちをやがて襲う衝撃の度合いは大きくなるだろうと、著者は警鐘を鳴らしている。

■会社員の副業解禁、そのメリットはどこにある?

 多様な働き方の実現に向けて、政府が推し進めている働き方改革。その言葉や意味を知ろうとするにつれて気になるのは、改革実現の先で将来恩恵を受けることになる“主役”は誰かということだ。会社で“働く人”といってもそれぞれの立場は異なる。しかし、真っ先に目を向けるべきなのは、やはり現場で汗を流し続ける従業員だろう。
 近年のブラック企業問題はそこから派生した典型で、従業員が受ける処遇についての不満が多く目につく。そのように賃金や残業などにまつわる労働条件を嘆く声が多く聞かれるなか、新しく個々の従業員に対して“多様な働き方”を認める取り組みを始めた企業もある。

 大手製薬会社・ロート製薬は、2016年2月に従業員の副業解禁を発表した。本書によれば、その目的は「未知の業務や仕事の進め方を通して、従業員個々人の許容力の器を押し広げられること、発想力の育成と業務・人的チャネルの輪を広げること、そして自主性の育成」だという。
 しかし一般的には従業員の副業は禁止されているケースが多い。機密事項の漏洩や本来の労働に対する意欲低下などを懸念してという理由が主だが、その旧来の「常識の枠」こそが、働き方改革というダイバーシティ戦略の前に立ちふさがる“目に見えない壁”だ、と著者は指摘し、このロート製薬の取り組みを肯定している。

 副業を通して、従業員は収入のアップが見込める。一方会社にとっては、従業員が外部から得た新たな知見や発想を組織にもたらしてくれるという、双方にとってのメリットが期待できる取り組みといえる。

■「ワーク・ライフ・バランス」と上手に付き合うコツ

 働き方改革に付随してよく耳にするキーワードが「ワーク・ライフ・バランス」だ。いわゆる仕事と日々の生活を調和させようという言葉だが、この実現をはばんでいる要因の一つが残業である。
 著者が問題視して取り上げるのは、“つきあい残業”の問題だ。
 上司や先輩が残っているから、自分の業務は終えたけど帰りづらい…という経験は誰しもあるかもしれない。本書で引用されている『ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査』(内閣府2013年)では、残業をより多くした部下を評価する上司が多いという結果も出た。
 自らの査定に響きかねないつきあい残業は、「労働の時間当たりの生産性を落としていく」と指摘する著者だが、一方で、従業員の満足度に重点を置き、残業をさせない経営改革を実行した企業の事例も紹介している。

 群馬県にある従業員20名のバネ製造メーカー は、従業員に負担をかけるような追加の注文を受けないという決断を下した。本来ならば部品の発注が多ければ売上は上がる一方で、通常の受注 量を上回ってしまうと従業員の補強を強いられかねないことを懸念したためだった。この英断を下せたのは取引先の多さによるもので、大口取引先ではなく、全国2000社近くの取引先からの少量ずつの発注を積み重ねて受けることに目を向け、従業員への負担をやわらげることができたという。

 会社や労働環境に端を発する問題は、すぐさま解決できるものばかりではない。政府の推し進めている働き方改革は、いつか個々人の幸せに繋がるのだろうが、まだ多くの課題は知恵の輪のようにからみ合っている。本書を通じて今山積する問題に目を向けることも、課題解決への有効な第一歩ではないだろうか。

文=カネコシュウヘイ